だけど、身体を起こそうと動いた瞬間に訪れた激しいめまいと吐き気に、それどころではなくなった。

 ……吐く。

 先生を呼ぶ間もなく、慌てて容器を手に取った。

「……ゲエェッ!」

「陽菜ちゃん!?」

 胃の中身を容器に戻した瞬間、勢いよくカーテンが引き開けられ、先生と井村さんが飛び込んで来た。

「…ゲッ……ゲボオッ」

 井村さんが背をさすってくれる。

「気持ち悪かったね。ごめんね、気が付かなくて」

 先生に再度、酸素濃度を測られる。

「酸素、準備しよう」

 吐いてる最中は普通に呼吸ができないから酸素だって吸えない。だから今、酸素濃度が低いのは吐いているせいで、嘔吐が治まったら酸素濃度も落ち着くから大丈夫だと伝えたいのに、まともに言葉にならない。

「……だ、じょう…ぶ」

 それでも必死で声を上げたけど、結局、これだけじゃ何も伝わらなかった。

「陽菜ちゃん、全然大丈夫じゃないと思うよ?」

 先生は一度わたしの側を離れて、酸素投与の準備をする。

「陽菜ちゃん、ゆっくり息吸おう」

 続く嘔吐で呼吸が怪しくなってきたわたしの背をさすりながら、井村さんが声をかけてくれる。苦しさから溢れ出る涙も拭ってくれた。

 嘔吐と嘔吐の合間に、マスクを当てられ、酸素を吸わされて、まるで病院にいるような気分になる。

「こんにちは~」

 ノックと同時に、遠くで人の声がした。吐いてる最中でよく聞き取れなかった。

 だけど、続く言葉にそこにいるのが晃太くんだと分かった。

「……ハルちゃん!?」

 驚いたような慌てたような声。

「大丈夫!?」

 ああ、こんな姿、晃太くんには見せたくなかった。せめて、大丈夫だと強がれる状態で会いたかった。

 だけど、その瞬間、わたしは井村さんに介抱されながら、また胃の中身を盛大に戻していた。