数学の授業が終わると、時間はあっという間に過ぎた。
もう夕方とはいえ、まだ気温の高い放課後。
「テスト終わってもうすぐ夏休みだからって、羽目を外すなよー」
「はーい、バイバイ先生」
学校が終わって嬉しそうなクラスメイト達が、教室を出ていく。
対して私はあまり嬉しくない。
「凛月、今日一緒に帰れなくてごめん!」
忙しそうに筆箱やらノートをかばんに入れながら麻妃が言う。
今日は急遽バイトの代わりを頼まれたらしい。
「ううん、全然平気だよ!バイト頑張ってね」
「ありがと!凛月、気を付けて帰りなよ」
「うん、麻妃も」
それだけ言うと、手を振りながら教室を走って出ていった。
彼女は走る姿も様になるな、とふと思う。
麻妃には平気だと言いながら、どこか不安を感じてしまっていた。
バイトだし、彼女は悪くないし、それどころか一緒に帰れないことを謝罪までしてくれた。
頭ではわかっているのに、感情を上手く制御できない。
……一人で、帰りたくない。
学校の中で麻妃と離れると、途端に不安になる自分が嫌になる。
ううん、そんなこと考えてる場合じゃない、私も家に帰らないと。
急がないといけないわけではないけれど、機嫌次第では母がグチグチ言ってくるかもしれない。
トイレだけ行って帰ろうかな、かばんを持って教室を出た。
廊下はクーラーが効いていないから暑い。
夏だから仕方ないけれど、長袖を着て歩くだけで汗が出る。
無意識に袖をまくろうとして手を止める。
はやく冬にならないかな。
そんなことを考えているとトイレに着いた。
ここは、学校のトイレにしては綺麗で新しいから好きだ。
個室に入ってカギをしめると、あははと楽しそうな声がすぐそばで聞こえる。
蛇口を捻ったような音がしたかと思うと、次いでジャーという水が流れるような音がした。
何してるんだろう、掃除かな?
そう考えた瞬間、
「……っ!?」
バシャーン!と水が私にかかった。
「あはは!びしょ濡れで帰るとかカワイソー」
「モデルの麻妃にかばってもらってるからって調子のんな」
「ざまあみろ、大して美人でもモデルでもないのに、麻妃とつるむからイジメられちゃうんだよー?」
きゃっきゃと楽しそうに話すと、パタパタと走っていく足音がして、そのまま遠ざかって行った。
私は何も言えず、しばらくそのまま動けなかった。
髪から水が滴って、ポタポタと地面に落ちる。
びしょ濡れだった。
髪と制服はもちろん、靴も靴下もかばんも。
初めてだった。
教室で笑われたり無視されたり、物が無くなったりしたことはあったけれど、こんな酷い目に遭うのは。
最悪だ。
今日は体育もなかったから着替えなんてもってない。
ハンカチならあるけど、こんなに濡れてたら気休めにしかならないだろう。
確かに暑いなんて思ってたけれど、今は冷水をかぶったせいで少し肌寒い。
このままだと電車になんて乗れないし、もし風邪を引いたら怒られる。
どうしよう。
考えなきゃいけないのに、頭が上手く働かない。
どうして私ばっかりこんな目に遭うの……
目の前のカギを開けると、何も考えずに走った。
もうこんな場所から逃げ出したかった。
もう夕方とはいえ、まだ気温の高い放課後。
「テスト終わってもうすぐ夏休みだからって、羽目を外すなよー」
「はーい、バイバイ先生」
学校が終わって嬉しそうなクラスメイト達が、教室を出ていく。
対して私はあまり嬉しくない。
「凛月、今日一緒に帰れなくてごめん!」
忙しそうに筆箱やらノートをかばんに入れながら麻妃が言う。
今日は急遽バイトの代わりを頼まれたらしい。
「ううん、全然平気だよ!バイト頑張ってね」
「ありがと!凛月、気を付けて帰りなよ」
「うん、麻妃も」
それだけ言うと、手を振りながら教室を走って出ていった。
彼女は走る姿も様になるな、とふと思う。
麻妃には平気だと言いながら、どこか不安を感じてしまっていた。
バイトだし、彼女は悪くないし、それどころか一緒に帰れないことを謝罪までしてくれた。
頭ではわかっているのに、感情を上手く制御できない。
……一人で、帰りたくない。
学校の中で麻妃と離れると、途端に不安になる自分が嫌になる。
ううん、そんなこと考えてる場合じゃない、私も家に帰らないと。
急がないといけないわけではないけれど、機嫌次第では母がグチグチ言ってくるかもしれない。
トイレだけ行って帰ろうかな、かばんを持って教室を出た。
廊下はクーラーが効いていないから暑い。
夏だから仕方ないけれど、長袖を着て歩くだけで汗が出る。
無意識に袖をまくろうとして手を止める。
はやく冬にならないかな。
そんなことを考えているとトイレに着いた。
ここは、学校のトイレにしては綺麗で新しいから好きだ。
個室に入ってカギをしめると、あははと楽しそうな声がすぐそばで聞こえる。
蛇口を捻ったような音がしたかと思うと、次いでジャーという水が流れるような音がした。
何してるんだろう、掃除かな?
そう考えた瞬間、
「……っ!?」
バシャーン!と水が私にかかった。
「あはは!びしょ濡れで帰るとかカワイソー」
「モデルの麻妃にかばってもらってるからって調子のんな」
「ざまあみろ、大して美人でもモデルでもないのに、麻妃とつるむからイジメられちゃうんだよー?」
きゃっきゃと楽しそうに話すと、パタパタと走っていく足音がして、そのまま遠ざかって行った。
私は何も言えず、しばらくそのまま動けなかった。
髪から水が滴って、ポタポタと地面に落ちる。
びしょ濡れだった。
髪と制服はもちろん、靴も靴下もかばんも。
初めてだった。
教室で笑われたり無視されたり、物が無くなったりしたことはあったけれど、こんな酷い目に遭うのは。
最悪だ。
今日は体育もなかったから着替えなんてもってない。
ハンカチならあるけど、こんなに濡れてたら気休めにしかならないだろう。
確かに暑いなんて思ってたけれど、今は冷水をかぶったせいで少し肌寒い。
このままだと電車になんて乗れないし、もし風邪を引いたら怒られる。
どうしよう。
考えなきゃいけないのに、頭が上手く働かない。
どうして私ばっかりこんな目に遭うの……
目の前のカギを開けると、何も考えずに走った。
もうこんな場所から逃げ出したかった。



