私はこのクラスで、世間一般的に言ういじめにあっている、んだと思う。
ある日突然、という訳ではなく、あれおかしいなと思ったらもう始まっていた。
明確な理由はわからない。
このクラスで、ヘイトを集めるような何かをやらかした覚えはないけれど、たぶん気に触ることをしてしまったんだろう。
『いじめにあう人にも問題がある』と言う人もいるらしいし、私に何か問題があるんだろうな。
いじめが始まる前までの学校は、家から逃れることのできる場所だったけれど、今はもう違う。
今までは普通に話してくれる人も、仲良くしてくれる人もたくさんいたはずなのに、私の当たり前はあっという間に塗り変わってしまった。
「佐藤!この問題解いてみろ」
いつのまにかぼーっとしてしまっていると、先生に当てられてしまった。
黒板の方を見ると、解けと言われた問題がお世辞にも丁寧と言えない文字で並んでいる。
あれ、こんなの二年生で習うっけ……
勉強は好きではないけれど、いい点数をとらなければ母にまた怒られてしまうから最低限はしてるのに……
数式を見る限りでは、解けそうなのに。
でも解き方が全くわからない。
黙って必死に頭を働かせていると、どんどん先生の機嫌が悪くなる。
「佐藤はこんな問題も解けないのか、先生は残念だ」
はあっと大げさにため息をつくと、持っていた教科書をドンっと大きな音をたてて教卓に置いた。
あからさまな怒っていますオーラに心臓がドキッとする。
「テストの点数がいいからって、調子にのるな!オレの授業で寝ぼけているからこんな問題も解けないんだ!」
「ご、ごめんなさい……」
怖い顔で怒鳴られて、反射的に謝罪の言葉が口からでてくる。
デジャヴだ、頭が痛い。
どうして私はこんなに人に怒鳴られることが多いんだろう。
私ってそんなに嫌われる要素の揃った人間なのかな……
「こんな応用問題、授業で習ってませんけど」
緊迫した場面で、凛とした声が教室に通る。
私を守るように先生にかみついたのは、やっぱり隣の席の麻妃だった。
「えー、でもあたしは先生に教えてもらったよー?」
「みゆもー!昨日放課後に教えてもらったんだあ」
声をあげたのは、ふたりの女子だった。
女子高校生という文字が似合う、かわいくて明るい子。
「ああそうだ、ふたりは数学を頑張りたいと言っていたからな。佐藤より成績が悪い奴でも解けるのに、お前は解けないのか、佐藤?」
先生はさっきまで怒っていたのが嘘のように、にやにや笑っていた。
「だから、教えてもらってないんだから解けないの普通でしょ!わかるんだったら授業受けに学校来てないっつーの」
隣の麻妃は、まるで自分のことのように怒ってくれていた。
嬉しいのに、そのことが何より辛くて仕方がない。
「ありがとう麻妃、ごめんね」
「凛月は悪くないでしょ」
私は悪くない。
本当に、悪くない……?
もうわからなくなって、肯定しても否定しても間違っている気がして、何も言えずに微笑んだ。
そんな私を見て、麻妃も黙る。
「ごめんなさい、私には解けないです」
先生にそう答えると、クラスはどっと笑いがおきた。
麻妃は何も言わずに、机に突っ伏す。
「ええー、あたしは解けるのに、はっずかしー」
「はーい先生!みゆ解けるから、黒板に書かせ
て!」
「ああもちろんだ」
楽しそうに騒ぐクラスが、まるで遠い。
どうすれば1年生のときのように戻るんだろう。
先生に、クラスメイトにこれ以上嫌われないようにするためにはどう努力すればいい?
いっそ諦めて転校でもすればいいのかな。
でも、ずっと仲良くしてくれてる麻妃と離れたくない。
だけど、私がいなかったら麻妃はきっと……
ううん、それ以前に父や母に転校したいなんて言えないな。
理由なんてとても話せないし、ちゃんと聞いてくれるかもわからない。
ああほんと、私が生きてる意味なんてないな。
ある日突然、という訳ではなく、あれおかしいなと思ったらもう始まっていた。
明確な理由はわからない。
このクラスで、ヘイトを集めるような何かをやらかした覚えはないけれど、たぶん気に触ることをしてしまったんだろう。
『いじめにあう人にも問題がある』と言う人もいるらしいし、私に何か問題があるんだろうな。
いじめが始まる前までの学校は、家から逃れることのできる場所だったけれど、今はもう違う。
今までは普通に話してくれる人も、仲良くしてくれる人もたくさんいたはずなのに、私の当たり前はあっという間に塗り変わってしまった。
「佐藤!この問題解いてみろ」
いつのまにかぼーっとしてしまっていると、先生に当てられてしまった。
黒板の方を見ると、解けと言われた問題がお世辞にも丁寧と言えない文字で並んでいる。
あれ、こんなの二年生で習うっけ……
勉強は好きではないけれど、いい点数をとらなければ母にまた怒られてしまうから最低限はしてるのに……
数式を見る限りでは、解けそうなのに。
でも解き方が全くわからない。
黙って必死に頭を働かせていると、どんどん先生の機嫌が悪くなる。
「佐藤はこんな問題も解けないのか、先生は残念だ」
はあっと大げさにため息をつくと、持っていた教科書をドンっと大きな音をたてて教卓に置いた。
あからさまな怒っていますオーラに心臓がドキッとする。
「テストの点数がいいからって、調子にのるな!オレの授業で寝ぼけているからこんな問題も解けないんだ!」
「ご、ごめんなさい……」
怖い顔で怒鳴られて、反射的に謝罪の言葉が口からでてくる。
デジャヴだ、頭が痛い。
どうして私はこんなに人に怒鳴られることが多いんだろう。
私ってそんなに嫌われる要素の揃った人間なのかな……
「こんな応用問題、授業で習ってませんけど」
緊迫した場面で、凛とした声が教室に通る。
私を守るように先生にかみついたのは、やっぱり隣の席の麻妃だった。
「えー、でもあたしは先生に教えてもらったよー?」
「みゆもー!昨日放課後に教えてもらったんだあ」
声をあげたのは、ふたりの女子だった。
女子高校生という文字が似合う、かわいくて明るい子。
「ああそうだ、ふたりは数学を頑張りたいと言っていたからな。佐藤より成績が悪い奴でも解けるのに、お前は解けないのか、佐藤?」
先生はさっきまで怒っていたのが嘘のように、にやにや笑っていた。
「だから、教えてもらってないんだから解けないの普通でしょ!わかるんだったら授業受けに学校来てないっつーの」
隣の麻妃は、まるで自分のことのように怒ってくれていた。
嬉しいのに、そのことが何より辛くて仕方がない。
「ありがとう麻妃、ごめんね」
「凛月は悪くないでしょ」
私は悪くない。
本当に、悪くない……?
もうわからなくなって、肯定しても否定しても間違っている気がして、何も言えずに微笑んだ。
そんな私を見て、麻妃も黙る。
「ごめんなさい、私には解けないです」
先生にそう答えると、クラスはどっと笑いがおきた。
麻妃は何も言わずに、机に突っ伏す。
「ええー、あたしは解けるのに、はっずかしー」
「はーい先生!みゆ解けるから、黒板に書かせ
て!」
「ああもちろんだ」
楽しそうに騒ぐクラスが、まるで遠い。
どうすれば1年生のときのように戻るんだろう。
先生に、クラスメイトにこれ以上嫌われないようにするためにはどう努力すればいい?
いっそ諦めて転校でもすればいいのかな。
でも、ずっと仲良くしてくれてる麻妃と離れたくない。
だけど、私がいなかったら麻妃はきっと……
ううん、それ以前に父や母に転校したいなんて言えないな。
理由なんてとても話せないし、ちゃんと聞いてくれるかもわからない。
ああほんと、私が生きてる意味なんてないな。



