夜明け3秒前

「え、えっとじゃあ……まぐろとサーモンをお願いします」

「はいよ」


注文すると、さっさと握ってくれる。
職人さんってすごい……!

感心してじーっと見ていると、隣に流川くんがやって来た。


「流川くん!私、目の前でお寿司を握ってもらうの初めてだよ!すごいね」

「ははっ、そっか。こういうの憧れるよな」

「うん!」


そう話している間に、お寿司を私のトレーの上へとのせてくれる。


「へい、おまち」
「わあ、ありがとうございます」


まさかこんな体験ができるだなんて思わなかった。
楽しい、嬉しい、そんな明るい気持ちでいっぱいで、テンションが上がってしまう。


「お客さんたち仲いいね。そっちの彼氏さんは何か注文あるかい」

「えっ?」
「じゃあ、まぐろとはまちをお願いします」

「はいよ」


びっくりしているのは私だけで、流川くんは平然と話を進める。
え、私の聞き違い……?


彼氏さんって言ってたよね!?
つまり私たちは恋人同士に見えるってこと……?

流川くんと私が……!?
ない、ないないない!


流川くん、どうして否定しないんだろう……!
いや、私がしたらいい話なんだけれど、今更否定するのもおかしい気がして声が出ない。


「へい、おまち」

「ありがとうございます。じゃあ1回席に戻ろっか、凛月」

「え、うん!」


結局悩むだけで終わってしまった。
なんていうか……こういうのも慣れてるな、流川くん。


確かに、男女の2人組がいたらカップルに見えることが多いのかもしれないけれど。
流川くんモテるし、こういうこと多いのかな。


モヤモヤした気持ちのまま席に着く。
目の前に座っている彼に、何か聞くこともできない意気地なし。

それでも料理は美味しくて、お箸が進む。
彼の話を聞いていると、いつのまにか楽しくなって、また明るい気持ちに戻っていた。