夜明け3秒前

10分後。
部屋を出ると、流川くんもほとんど同じタイミングで開けて出てきたせいで、思わずふふっと笑ってしまう。


彼もおかしそうに笑うと、カードキーをまたドアノブにかざした。
ガチャっという音がする。


「これで鍵をかけられるよ」
「なるほど……!ありがとう、すごいね」


同じように真似ると、きちんと鍵をかけることができた。

それにしても、部屋の鍵の開閉方法を教えてもらうまで知らなかったというのは、少し……いや、結構やばいんじゃないかな。


こんなところで躓いていたら、いつかやらかしてしまうんじゃないかと、自分のことながら心配だ。
こういう経験がないからって、いくらなんでも酷い気がする。


「……私、1人でちゃんと眠れるかな」


急に不安になってぽつりと声に出る。
無知なせいで、何かタブーなことをしてしまわないかな。


「じゃあ、一緒の部屋で寝る?」
「え?」


彼の方を見上げると、真剣な面持ちだった。
綺麗な顔の人は、こういう表情をしていても絵になる。


それにしても、一緒の部屋で寝るなんて本気なのかな。
使わないもうひとつの部屋はどうなるんだろう。

でも、それ以前にベッドの大きさ的にきついんじゃないかな。
1人だとゆっくりできる広さだったけれど、2人だと流石に狭そうだ。

いやそうじゃなくて、そんなことしたら麻妃に怒られちゃうかも。
何て答えようか迷っていると、彼はふふっと笑った。


「ごめん、冗談だよ。夜ご飯食べに行こう」
「えっ?う、うん、行こう」


展開についていけないまま、流川くんの後ろを歩く。


冗談?びっくりした……


そうだよね、流川くんだって冗談くらい言うよね……
言葉にできない感情が、私の心をぐるぐるする。

落ち着かせるように、ふうっと息をついた。