夜明け3秒前

「流川くん……?」


恐る恐る声をかけると、すっといつもの表情に戻った。


「はは、ありがとう。でも今はいいかな」
「ええ、そっかあ……」


困ったなあ、彼がこんなに無欲の人なんて。


もし母に言ったら、『じゃあ夜食の用意して、それからお風呂掃除』って答えるだろうし、妹や弟なら、『服』とか『おもちゃ』とか言ってくれるんだけどな。

それに麻妃や家族なら、少なくとも何をあげたら喜ぶか、何が好きかは知っているし……
うーん、知らないってこんなに難しいものなんだなあ……


「じゃあ、何が好き?」
「アイスティー」
「そ、それ以外で!」
「え、うーん……旅行することかな」
「旅行!?」


旅行ってどうやってプレゼントするの?
チケットとか?

でも、今旅行しているのにどうしたらいいんだろう。
できれば今すぐにでもお礼がしたいのに。


こんなに助けてもらったのに、何も用意できない自分が嫌になる。


「凛月がこの旅行についてきてくれただけで、俺にとっては十分お礼だよ」


そう言ってくれるけれど、全然納得できない。
観光しながら、好きなものや好きなことを必死になって聞いたけれど、有力な情報は全く得ることができず。


そうこうしている間に19時近くになり、ホテルへと戻ることになった。