「はあ……」


思い出すだけでも痛い。
どうして弟をかばったんだろう。


私がああやって怒られているときに、一度でも家族の誰かに助けてもらったことはあっただろうか。
いつも痛い思いをするのは私だけ。


……なんて、そんな風に考える自分さえ嫌になる。


だけど、弟が母に叩かれるのを守れてよかった。
クラスメイトの子たちが見ていたら、「偽善者乙」って言われそうだし、正直私自身も思っているけれど。


でも、"弟"を助けることができてよかったと心の底から思う自分もいて。


ただ、今日の母がどうなっているかは不安だ。
弟に手を出そうとしたのが昨日だけだったらいいけれど……


傷だらけの体を隠すように服を着て、リビングへと向かう。
静かに扉を開けると、母と妹弟がいた。


「昨日は本当にごめんなさいね光輝。お母さん頭に血が上っちゃったみたいで、許してくれる?」


昨日の怒りが嘘のような甘い声で許しを請う母。
弟は顔が引きつってはいるけれど、うんと頷く。


「ありがとう光輝、貴方は本当にいい子ね、優しい子だわ」


にこにこと微笑んで、優しく抱きしめ頭をなでる。
私は全部してもらったことがない。


まるで映画を見ているような感覚だ。
だけどこれでひとまず安心できる。


扉を閉めようとすると、ぱちっと妹と目が合う。
でもすぐに逸らされて、気にせず扉を閉めた。