夜明け3秒前

「ていうか、いつあいつと知り合ったの?」

「えっと、水をかけられた日だよ。そのときタオルとか貸してもらって」


もしあのとき流川くんがいなかったら、びしょ濡れのまま帰ることになってた。
彼と知り合ったのは最近なのに、なんだかそれも懐かしく思う。


「なるほどね、そっか。あーあ、よかった!凛月がイケメンに騙されてるとかじゃなくて」

「ふ、ふふっ。流川くんはすごく優しい人だよ」


彼が誰かを騙しているところなんて想像ができなくて笑ってしまう。
あ、でもそうだ、もうひとつ伝えなくちゃいけないことがある。


「麻妃、言い忘れてたんだけど、8月から流川くんと旅行するんだ」


私の言葉を聞くと、彼女の動きがピシッと止まる。
まるで信じられない、と言いたげな顔をして。


「え、まさか友達どころか付き合ってたの?」

「付き合う!?ち、違うよ、付き合ってないよ!」


次は麻妃の言葉で私が焦る。
彼と付き合うなんてとんでもない!


「は、ど、どういうこと!?やっぱり騙されてるじゃん!」

「ええっ!?だ、騙されてないよたぶん!」


まさか、そんな反応をされるなんて思ってなくて驚く。
2人であわあわしていると、ふと周りの視線が気になって止まる。


「す、すみません……」


謝ると、にこっと微笑まれた。
青春してるね~なんて声が聞こえて、恥ずかしくなる。


「……よし、一回落ち着こ。あたしの悪い癖が出ちゃった。それで、旅行ってどういうこと?」

「えっと、どこか遠くに逃げたいなって言ったら、じゃあ旅行についておいでって感じで誘ってくれて……」


正直あのときは驚きの連続で、自分のいいように記憶が書き換わっているんじゃないかと思ったことがある。


「ふーん、2人でだよね?」

「うん。でもコテージに着くまでのホテルとかはそうだけど、コテージに着いたら流川くんのお祖父さんがいるから3人、かな」


これは母と流川くんが話しているときに聞いたことだ。
コテージへ帰るときはいつも電車だそうで、着く前に観光がてらホテルで一泊しているらしい。


「でもコテージに着くまでは2人じゃん。それもホテルかあ……」

「そ、そんなに心配しなくても何もないよ。それに部屋も別々だし……」


安心させるために言ったはずが、麻妃はキッと目を吊り上がらせる。


「当たり前でしょ!それで同じ部屋だったら、また流川と話をしなくちゃいけないところだよ」


もう、と心配してくれているのが、なんだかお姉ちゃんみたいだ。


「もしなんかされたら、すぐに連絡するんだよ」
「ふふ、うん。ありがとう」
「もー、ほんとにわかってるの?」