麻妃の涙が止まると、「やばい、メイク落ちたから直してくる。いつもの注文しといて」と言ってトイレの方へ走っていった。


話しているうちに日が昇り、もう時計の針が12時を指している。
お店も徐々に込んできた。

笑い合って楽しそうな制服の学生、見ているだけで心が温かくなる老夫婦や、仲が良さそうな家族連れ。

流れているBGMと幸せそうな声が混ざって、店内は一気ににぎやかになる。


机に設置されている呼び出しボタンを押すと、すぐに店員さんが来てくれた。
ハンバーグとドリア、それからサラダを頼むと、「かしこまりました」と言って厨房へと戻っていく。


……なんだかとても温かくて落ち着いた。
最近、色々なことが一遍に起きて、心が忙しなかったから安心する。


ぼーっと店内を見まわしていると、麻妃はすぐに戻ってきた。


「は、早いね。メイクするの大変なのに」
「直すだけだからね。もうパパっとしてきた」


ポーチをしまいながら話す彼女の顔を見るけれど、いつも通り綺麗にメイクが施されていて尊敬する。


「ごめんね、あたしの分まで注文してもらって」

「ううん。いつも私の分まで麻妃はしてくれるでしょ」


気にしないでいいよと微笑む。
するとジンジャーエールを一口飲んで、遠い昔を思い出すような顔をした。


「うん、それね……全部あたしがやってあげなくちゃって勝手に思ってたんだよね。なんていうか、守らなきゃ、みたいな」


思い当たることはたくさんあった。
クラスメイトや先生のこと、家族のこと、私のこの性格も。


「依存、してたんだよねたぶん。それもあんまりよくないようなヤツ。凛月にはあたししかいないからって勝手に必死になってた」

「依存……」


彼女の言葉をなぞるように口から出た。
するとピースがはまっていくみたいに、今までのことを思い出す。


「……私も、してた、かも」


吐き出すように言葉を紡ぐと、彼女はにししっと笑った。

「まあさ、人生何にも依存せずに生きていくなんて無理じゃん?だからね、ちょっとずつ変わればいいよね」