席へ座ると、麻妃は悲しそうな顔をしてぽつりと言った。


「全部、話してほしい」


彼女にしては弱弱しい声で、でもはっきりと聞こえた。


「……うん、そのつもりだよ」


私は頷いて、麻妃の目を見る。
本当のことを話したら、きっと彼女は傷ついてしまう。


それでも、それでも—


もう一度両手を握って、少しずつあの日のことを話した。
トイレで水をかけられたことも、クラスメイトに言われた言葉も、全部。


麻妃は静かに聞いてくれていたけれど、どんどん顔色が悪くなっていく。
私が話し終えると、彼女は小さく口を開いた。


「ごめー」
「謝らないで!」


麻妃が言い終わる前に、言葉をかぶせた。
彼女は目を丸くさせていたけれど、「……うん」と力なく頷く。


「麻妃は悪くないの、私が悪いんだよ、だから」

「何それ、あたしのこと悪くないって言うんだったら、凛月だって悪くないでしょ」


苦しそうに話す麻妃。
彼女の優しさが沁みて、痛いくらいだ。


「……ううん違うよ。だって、私がそばにいるせいで、麻妃まで馬鹿にされて笑われてるんだよ」

「違うでしょ。あたしが隣にいるせいで、嫉妬されて、こんな目に遭わされてる」


真っ直ぐな視線に射止められて、目が離せなかった。
それに、彼女の言葉はとても強くて、一切揺らぐことがない。


でも本当にそうだろうか。
麻妃と一緒にいたのは高校だけじゃない、中学もだ。


それに少なくとも、高校1年生のときはこんなこともなかった。
確かに、今のクラスメイトだったから、あの先生だったから、と言われたらそうかもしれないけれど。


はいそうですね、とは納得できない。


「……まあどっちにしてもさ、普通に仲良くしたいのに酷いよね。でも、わかってたのに凛月から離れなかったあたしも、酷い」


自虐的に笑う麻妃はすごく痛々しい。
でも、彼女の言葉がまるで私と同じで、ドキッとする。


「ううん……私も、私だってそうだよ。麻妃はみんなから好かれてるし、私が離れたらそれで解決するってわかってたけど、でも……離れられなかった」


ずっと奥にため込んでいたことを話すと、目の前の彼女は目を見開いた。
そのあと、やれやれといった風に笑う。


「あーあ、そっか……なんだ、お互い様じゃん。あたしたち、似た者同士だったね」