自分の部屋に戻ると、ぼふんとベッドに寝転んだ。
こうしたからってすぐに眠りにつけることは少ない。
暗い部屋で、母や弟たちとのさっきまでの出来事が頭にぼんやりと浮かぶ。
『……ねぇ、私が洗うよ』
ご飯を食べ終わったあとだった。
お皿洗いをするのは私の仕事で、いつも通りキッチンへ向かう。
でも、私より先にキッチンに立っていたのはまだ小学生の弟だった。
彼なりに頑張っているんだろう、短い腕を必死に伸ばしてお皿を洗っていた。
『危ないよ、お皿洗いなら私が……』
『うるさい!僕が洗って褒められるんだ!』
なるほど、と納得した。
母に認めてもらいたいのか、私にもそんな時期があった。
そんなことをしなくても、私以外の兄弟たちは愛されているだろうに。
真剣な表情の弟に毒付きながら、
『台だけ持ってくるから、少し待ってて』
そう言って取りに行こうとしたときだった。
泡の付いた手で袖をまくろうとして、ぴちゃんと床に泡が付いてしまったのだ。
『……あ』
そのとき一瞬で思い出した。
今すぐ拭かなきゃ、母に見つかったら…
頭は嫌という程動いているのに、体は何故か震えて動かない。
弟は顔を真っ青にして、私にスポンジを押し付けてきた。
『……え、ちょっと』
『あら、もうお皿洗いは終わったの?』
母の声がすぐ後ろからした。
最悪だ、嫌だ、なんて思った瞬間殴られた。
ガタンと私の体は床に倒れる。
受け身をとれず肩をぶつけてしまって、ジンジンと痛い。
『どうして床を汚してるの!お皿洗いもろくにできないなんて!』
あぁ、やっぱり怒られた。
昔もあったな、あのときも私は弟のように無理に腕を伸ばしてた。
でも結局上手くはできなくて、殴られて怒鳴られた。
そしてそのとき父が帰ってきて、また殴られたのを思い出した。
体はぶるぶると震えて、背中に悪寒が走る。
怖い、私、悪くないのに。
『ぼ、僕は悪くない!』
まるで私の心の声を読んだかのように、弟の声と重なった。
……そっか、また私が悪かったんだ。
キッチンへ向かうのが私の方が遅かったから?
危ないと言ってスポンジを取り上げなかったから?
「……痛い」
殴られた体の部分が、当たり前のように貶される心が。
どうせ今更後悔したって、何も変わることはないのだ。
嫌われている事実も、痛くて苦しい今も。
それでもずっと引きずっている。
そしてそのまま何も行動できずにいる。
また何度目かの今日が終わる。
明日は素敵な1日だといいな、なんて他人事のように、いつものように祈って、そのまま眠れるよう目を閉じた。



