「ただいま……」
家に入った瞬間、小さかった声はもっと小さくなる。
それに比例して、心もどんどん弱気になる。
リビングに行くと、母はキッチンで夜ご飯を作っていた。
妹も弟もいない。
今がチャンスだ。
息を吸って、「お母さん」と声をかける。
10秒くらい沈黙が流れて、また無視されてしまったのかと思った。
だけど母はゆっくりと動作を止めて、こちらに振り向いた。
「……何?挨拶もないの」
母の表情はとても機嫌がいいとはいえない。
やってしまった。
話しかけることに精一杯で、ただいまと声をかけるのを忘れてしまっていた。
「ご、ごめんなさい、ただいま帰りました……」
ふんっと鼻で笑うと、母はまたキッチンのほうへと向いてしまう。
会話が終了してしまった。
何やってるの私、全然だめだ……!
話すだけ、目の前にいる人にただ話すだけなのに……!
簡単なことだと理解しているのに、それができない。
まるで唇が縫い付けられているかのように動かない。
怖い。
この人が怖いんだ。
突然かばんのポケットに入れていた携帯が震える。
通知だ、学校に行っていたからマナーモードに設定したままだった。
何も考えず画面を見ると、そこには『今日の晩飯、オムライスだった!』と書いてあった。
流川くんからだ。
おはようとか課題終わったかとか、そういう話がたまに送られてくる。
何気ない日常会話ばかりで、会話がすぐ終わったりもするけれど、また始まって終わるということを何回か繰り返していた。
返事を考えることもなく、ただその文字を眺める。
もう唇は動いていた。
家に入った瞬間、小さかった声はもっと小さくなる。
それに比例して、心もどんどん弱気になる。
リビングに行くと、母はキッチンで夜ご飯を作っていた。
妹も弟もいない。
今がチャンスだ。
息を吸って、「お母さん」と声をかける。
10秒くらい沈黙が流れて、また無視されてしまったのかと思った。
だけど母はゆっくりと動作を止めて、こちらに振り向いた。
「……何?挨拶もないの」
母の表情はとても機嫌がいいとはいえない。
やってしまった。
話しかけることに精一杯で、ただいまと声をかけるのを忘れてしまっていた。
「ご、ごめんなさい、ただいま帰りました……」
ふんっと鼻で笑うと、母はまたキッチンのほうへと向いてしまう。
会話が終了してしまった。
何やってるの私、全然だめだ……!
話すだけ、目の前にいる人にただ話すだけなのに……!
簡単なことだと理解しているのに、それができない。
まるで唇が縫い付けられているかのように動かない。
怖い。
この人が怖いんだ。
突然かばんのポケットに入れていた携帯が震える。
通知だ、学校に行っていたからマナーモードに設定したままだった。
何も考えず画面を見ると、そこには『今日の晩飯、オムライスだった!』と書いてあった。
流川くんからだ。
おはようとか課題終わったかとか、そういう話がたまに送られてくる。
何気ない日常会話ばかりで、会話がすぐ終わったりもするけれど、また始まって終わるということを何回か繰り返していた。
返事を考えることもなく、ただその文字を眺める。
もう唇は動いていた。



