夜明け3秒前

「え?」

ど、どういうことだろう?
何も理解できずに、頭も体も固まってしまう。


「思いついた考えも、時間をかけて整理しないといけないだろうし……今すぐ凛月に説明はできないんだけど、絶対もめずに解決するって約束する」


そう言い切る流川くんは、綺麗というよりも、きりっとしたかっこいい表情で、私は頷くしかできなかった。


「必ず凛月を連れ去るから……って言っても、会ったばっかりの俺を信じられないのは当然だし、断ってくれても全然大丈夫だよ」


柔らかい表情で話すから、断るなみたいな圧は全く感じなかった。
もし私が断っても、わかったと言っていつもみたいに笑うんだろうな。


流川くんのことを信じられるか。
その答えはイエスだ。


会ったばかりなのは当然私も一緒で、それなのにこうして真剣に考えて助けてくれる。
彼にはきっと何の得もないし、何なら損しているだろう。


ここまでよくしてもらっているのに信じるななんて言われてしまったら、私は誰を信じたらいいのか余計にわからなくなる。

問題は自分なのだ。


私は私が信じられない。
だからこの決断があっているのか不安になる。

きっと私一人では母を説得できない。
だからと言って、彼に頼って麻妃のときのように繰り返しになってしまったら……

同じ不安がずっと解決できずに何度も頭をめぐる、だから。



「……うん、流川くんを信じる」


楽な方へ逃げてしまった。
その言葉は真実なはずなのに、何故か弱く聞こえてしまう。


流川くんは笑って、「そっか、ありがとう」と言ってくれる。
その笑顔が私には余計に眩しく感じてしまって、その言葉がとても申し訳なく思ってしまって、心が痛くなる。


「……ごめんね」


謝ったところで心が軽くなるわけじゃなかったけれど、つい口から出る。


「謝らなくていいよ、俺は信じてくれて嬉しいから」


流川くんは私のこの気持ちに気づいているのか、いないのか。
きっと気づかれていないだろうけれど、その言葉は今の私にはとてももったいないと感じてしまった。