夜明け3秒前

麻妃の言葉を聞いたとき、まさに青天の霹靂だった。


そんな考え方があるだなんて、そのときまで知らなかったから。


私が他の兄妹たちと同じように接してもらえないのは、私が何もかも劣っているから。
だから、私が悪い。


だけど、そうは思わないと言ってくれる人がいた。
子どもを産んだなら、育てるなら、みんな平等に愛すことが当たり前なんだと、考える人がいた。


正直、麻妃の言葉を聞いて、その通りだと自分の考えが変わったわけじゃないけれど、その言葉は私を救ってくれた。



「……私は麻妃に助けてもらったけれど、お母さんはすごく怒って……今でも麻妃のこと、その……すごく嫌っているみたいだから」



激怒する母の顔が思い浮かぶ。
私が悪いのに、麻妃のことまで悪く言う母の言葉はまるで弾丸だ。


彼女は私を救ってくれたのに、私は彼女に何もできていない。
それどころかこうして迷惑をかけているなんて。



「だから、流川くんの気持ちは本当に嬉しいんだけど、お母さんが流川くんにも酷いことするかもしれないから――」



一緒に来ないでほしい、そう言おうとした。



だけど、


「わかった」


と、まるで何かひらめいたみたいな顔をして流川くんが言うから、口に出せずに消えていく。


そのかわり、え?と小さな声が自分から出た。


わかったってどういう意味?
そんなことがあったなら、と諦めてくれたのかな。


でも、彼の表情はとてもじゃないけれど、じゃあ止めます、と言うような雰囲気じゃない。



「そっか、そういうことならまだなんとか……」



流川くんは何やらつぶやいているけれど、私には全くわからない。
今の話で、何か彼のためになる部分があったのかな。


ぐるぐる考えこんでいると、「凛月」と呼ばれる。



「あんまり話したくない内容だったと思うのに、話してくれてありがとな」


「え、ううん、それは全然……大丈夫」



確かに誰にでも言いふらすような内容ではない。
だけど、流川くんには話してもいいと思って、自分で言ったことだから。


そんなことでお礼を言われるのは、なんだか嬉しいような逆に申し訳ないような、変な気分だ。



「それで、話を聞いて思いついたんだけど……」



うーん、と悩んでいる素振りを見せたかと思うと、私の方を見て優しく微笑んだ。


「凛月、一度でいいから、俺のこと信じてくれない?」