夜明け3秒前

次の日、朝寝坊することもなく、ぐっすり眠れることもなく、4時30分に起きた。


この時間帯に起きると、もう二度寝したくても目が冴えてしまってできない。


だからいつも通り支度して、家を出た。
今日は怖いくらい静かな食卓だった。


兄が久しぶりにいたからかな。
それとも、父か母の機嫌が悪かったから?


どちらにせよ、怒られることも何か小言を言われることもなかったからいいんだけれど。
ああでも、やっぱり学校に行きたくないな。


水をかけてきたのはきっとクラスメイトだろうし……
相手もそりゃ嫌だろうけど、顔を合わせるのはちょっとだけ怖い。


でもそんなわけにはいかない。
流川くんに返さないといけないものがあるし、昨日の返事もしなくちゃいけないから。


だけど、学校に着いてふと気づいた。
流川くんって何組だろう……


休み時間に返すとしても、放課後に返すとしても、どこに行ったらいいのかわからないんじゃどうしようもない。



昨日、ちゃんと聞いておけばよかった……



教室に向かう廊下を歩いていると、前に麻妃がいることに気が付いた。
そうだ、麻妃なら知っているかもしれない。


一瞬、昨日言われた言葉が頭をよぎったけれど、気付かないふりをした。



「麻妃、おはよう」


「ん?凛月じゃん、おはよ。ちゃんと今日は起きれたの」



隣に並ぶと、にやにやと笑われる。



「あはは……今日は大丈夫だった。それでね、流川くんって何組か知ってる?」



尋ねるときょとんとした顔をして、


「流川?流川って、あの美形の流川千那(るかわせな)のこと?」


と返される。


そういえば、下の名前を聞いてなかった。
だけど美形なのは間違ってないし、あってる、よね。



「た、たぶんそう、だと思う」

「あいつなら確か1組だよ。あたしたちとは別校舎」



なるほど。
私たちのクラスは7組で、1から5組とは隣の別校舎だからほとんど会うことはない。


そこまで遠いわけじゃないけれど、休み時間だと時間ギリギリになっちゃうかな。
昼休みにお邪魔するわけにもいかないし、放課後になったら急いで行こう。



「ありがとう、麻妃。たすか――」



助かったよ、って伝えたかったけれど、途中で言葉に詰まってしまった。
すぐ後ろから、


「昨日あれだけされても、まだ麻妃とつるむんだねえ」


って聞こえたから。


心臓がドキッと嫌な音をたてる。
後ろを振り向くと、無表情のクラスメイトが3人立っていた。