「ごめん凛月、待たせた?」


待ち合わせをしていた駅は人がまばらで、すぐに彼女を見つけることができた。
俺に気づいた凛月は、嬉しそうに花笑む。


「ううん、全然。さっき来たところだよ」

「ならよかった。全然レポートが終わらなくて手間取って」

「レポート書くのすごく大変だもんね、お疲れ様」


話ながら目的地である水族館を目指す。


俺たちは高校を卒業して大学生になった。
もうすぐ付き合い始めて二年になる。


「あ、そういえば今年はじいちゃんのとこに泊まりに行こうと思うんだけど、凛月も行く?」

「え、いいの?行きたい!」


去年は結局受験の関係で行けなかったから、今年は絶対に行きたいと思ってたんだよな。
凛月も嬉しそうで、俺の気持ちも明るくなる。


あー、でも。


「今年は友達同士の旅行じゃなくて、恋人同士の旅行になるけど大丈夫?」

「えっ?」


一瞬意味がわからずきょとんとしていたけれど、どんどん顔が真っ赤に染まっていく。
よかった、さすがに意味は伝わったか。


それにしても彼女が照れている姿は特にかわいい。
いちいち俺の心の弱いところを突いてくる。


「……うん、大丈夫、行く!」


例えばこういうところも含めて、急に攻めてくるからたまらない。


「ははっ、じゃあ凛月のお祖父さんたちにお願いしに行かないとな」


彼女の小さな手を握る。
ぎゅっと握り返してくれるだけでこんなにも愛おしい。


さすがに今回は女装するわけにもいかないし、ちゃんとした格好で行かないと。
ていうか、大学一回生の恋人同士の旅行を認めてくれるかな……


今更ながら不安になっていると、


「ふふ、楽しみだね」


と凛月が笑う。


「うん、凛月となら楽しい旅行になるよ」


俺も凛月につられて笑った。