「今はもう怖くない?」

「えっ、うんもちろん。ええと、あのときはいっぱいいっぱいだったというか……」


まさかそう尋ねられると思っていなくて、もしや彼を傷つけてしまったのではと焦る。
なんて言ったら伝わるかな、と考えてひらめいた。


「今は好き、だから」


意を決して伝えると、彼は熱を帯びた声で「うん」とだけ言った。


伝わった……?
彼の瞳をじっと見ていると、綺麗な顔が近づいてきてドキリとする。


え、ち、近い……!
というかこれって……


経験のない私でもなんとなくわかる。
流川くんはキスをしようとしているんじゃないかって。


そう思ったら心臓がすごいスピードでドキドキし始めて、顔を見ていられなくなって、ぎゅっと目をつむった。


彼が離れる気配はしないのに、唇には一向に何も触れない。
それでも目を開けられなくてどうしようかと思ったとき、


「……キスしていい?」


と聞かれて、目を開けてしまった。


もう触れてしまうんじゃないかと思うくらい近い距離で、ピントが合わない。

でも、彼の瞳があのときみたいにギラギラしているのはわかる。
顔から湯気が出てしまうんじゃないかと思うくらい真っ赤なことも、自分のじゃない熱い体温も。


かすれた声で

「うん」

と返事すると、ゆっくりと唇が触れた。


一瞬ですぐに離れたけれど、心が幸せな気持ちでいっぱいに溢れる。
こんなに優しい触れ方があるなんて知らなかった。


余韻に浸っていると、流川くんと目が合う。
彼が優しい表情で笑うから、私もつられて笑ってしまった。