「邪魔だったら誘ってないよ。それとも俺とじゃ嫌?」
「そ、そういうわけじゃ……」
ああなんて言えばいいんだろう……
流川くんと逃げることがもしできるのなら、逃げてしまいたい。
でも、問題は山積みだ。
私は一緒にいて楽しい人間ではないと思うし、それに……
「母はたぶん許してくれない、と思う……」
「……なるほど」
旅行に行くとなると、母と話すことから逃げることはできないだろう。
でも、母だけでなくあの家族は、私の話をちゃんと聞いてくれないことがほとんどだ。
もし聞いてくれても、旅行に行くことを許してくれるかな……
麻妃と遊びに行くだけでも『勉強は?家の手伝いは?学生なんだからもっと他にやることがあるでしょう』って言われるのに……
流川くんは少しの間考えこむと、
「じゃあ俺が一緒に話すよ」
と笑った。
「一緒に頼んでみて、無理だったらそれでまた考え――」
「だ、ダメ!」
「え?」
咄嗟に大きい声を出してしまって、流川くんの顔がこわばる。
その表情を見て、やってしまったと手で口を覆う。
「あ、ご、ごめんね……」
「いや、俺の方こそごめん。ちょっとデリカシーなかったよな」
ああ、また悲しそうな顔をさせてしまった。
彼は悪くないのに。
こんな私に優しくしてくれた人なのに……
それでも、いいや、だからこそ怖いと思ってしまったのだ。
もしも麻妃みたいに、悪く言われることになってしまったら……って考えてしまう。
「違うの本当に、流川くんは悪くない……だからその、返事は明日でもいい?」
また逃げてしまった。
明日にしても、たとえ来年にしても、いつかは向き合わないといけないことなのに。
それでも、今日は思った以上にいろいろなことが起こりすぎて、一人でゆっくり考えたかった。
「うん、もちろん。待ってる」
「ありがとう……」
「それじゃあ、そろそろ帰ろっか」
冷たいコンクリートから立つと、ぬるい風が吹いた。
もう夕日が沈みそうだ。
「あの、流川くん、本当にありがとう。タオルも体操服も、コーンポタージュも……あ、明日洗濯して返すね」
「はは、いいよ気にしないで」
立ってみると彼の目線がさっきより遠くて、少し安心する。
やっぱり慣れない距離感で、無意識に体に力が入ってしまっていたらしい。
歩きだそうと思ったとき、プルルルルと携帯の着信音が鳴った。
私じゃない、ということは彼しかいない。
「あー……ごめん、友達から」
「ううん気にしないで。邪魔になっちゃうし……先に帰るね。また明日」
「ごめんな、また明日」
手を振って、少し早足になりながら帰路に就く。
体操服を着ているからか、周りからチラチラと見られる。
一緒に汚い傷も見られてしまっているのではないかと、気が気じゃなかった。
「そ、そういうわけじゃ……」
ああなんて言えばいいんだろう……
流川くんと逃げることがもしできるのなら、逃げてしまいたい。
でも、問題は山積みだ。
私は一緒にいて楽しい人間ではないと思うし、それに……
「母はたぶん許してくれない、と思う……」
「……なるほど」
旅行に行くとなると、母と話すことから逃げることはできないだろう。
でも、母だけでなくあの家族は、私の話をちゃんと聞いてくれないことがほとんどだ。
もし聞いてくれても、旅行に行くことを許してくれるかな……
麻妃と遊びに行くだけでも『勉強は?家の手伝いは?学生なんだからもっと他にやることがあるでしょう』って言われるのに……
流川くんは少しの間考えこむと、
「じゃあ俺が一緒に話すよ」
と笑った。
「一緒に頼んでみて、無理だったらそれでまた考え――」
「だ、ダメ!」
「え?」
咄嗟に大きい声を出してしまって、流川くんの顔がこわばる。
その表情を見て、やってしまったと手で口を覆う。
「あ、ご、ごめんね……」
「いや、俺の方こそごめん。ちょっとデリカシーなかったよな」
ああ、また悲しそうな顔をさせてしまった。
彼は悪くないのに。
こんな私に優しくしてくれた人なのに……
それでも、いいや、だからこそ怖いと思ってしまったのだ。
もしも麻妃みたいに、悪く言われることになってしまったら……って考えてしまう。
「違うの本当に、流川くんは悪くない……だからその、返事は明日でもいい?」
また逃げてしまった。
明日にしても、たとえ来年にしても、いつかは向き合わないといけないことなのに。
それでも、今日は思った以上にいろいろなことが起こりすぎて、一人でゆっくり考えたかった。
「うん、もちろん。待ってる」
「ありがとう……」
「それじゃあ、そろそろ帰ろっか」
冷たいコンクリートから立つと、ぬるい風が吹いた。
もう夕日が沈みそうだ。
「あの、流川くん、本当にありがとう。タオルも体操服も、コーンポタージュも……あ、明日洗濯して返すね」
「はは、いいよ気にしないで」
立ってみると彼の目線がさっきより遠くて、少し安心する。
やっぱり慣れない距離感で、無意識に体に力が入ってしまっていたらしい。
歩きだそうと思ったとき、プルルルルと携帯の着信音が鳴った。
私じゃない、ということは彼しかいない。
「あー……ごめん、友達から」
「ううん気にしないで。邪魔になっちゃうし……先に帰るね。また明日」
「ごめんな、また明日」
手を振って、少し早足になりながら帰路に就く。
体操服を着ているからか、周りからチラチラと見られる。
一緒に汚い傷も見られてしまっているのではないかと、気が気じゃなかった。



