夜明け3秒前

タクシーに揺られホテルに着くと、キラキラした格好の人でいっぱいだった。
どの人も綺麗に着飾っていて身のこなしが美しい。


この空間に入っていくのかあ……
窓から全部見えないくらいホテルは大きいし、私大丈夫かな……


「さて、じゃあ降りようか」


タクシーのドアが開き降りると、1歩目から転びそうになる。
低めのヒールにしたけれど、今まで履いたことなかったから歩きにくい……!


あわあわしていると隣にいた流川くんが笑う。


「俺でよければつかまって」
「え、で、でも……」
「エスコートしますよ」


そう言って腕を差し出してくれるから、迷いながらもつかまる。

「それじゃあ行こっか」
「うん……ありがとう」


さっきよりも歩きやすい。
でも正直、これで合っているのか不安だ。

こういう場に来たことがないし、こんなこともされたことないし。
マナーなんてほとんどわからない。

周りを見渡せば綺麗な恰好をした大人の人がいて、自分が浮いてるんじゃないかと怖くなる。
それにすごくチラチラ見られている気がするし……


思わず手に力をこめてしまって、流川くんと目が合う。


「心配しなくても大丈夫だよ」
「……うん」


彼がそう言ってくれるだけで不安が溶けて薄まる。
本当に魔法使いみたいだなあ。


「でも俺のそばから離れないでね」
「わ、わかった」


麻妃から言われたことをまさか彼からも言われるとは思っていなくて驚く。
頷くと流川くんは満足そうに笑った。