夜明け3秒前

「ごめんなさい、お待たせしました!」


ふわふわ揺れるスカートが落ち着かず、手で押さえて顔を上げる。
視界に入ったのは、黒のジャケットにすらっとしたパンツをはいた流川くんだった。


「……」


思わず黙って見惚れてしまうくらいかっこいい。
ぼーっと見ていると、流川くんが近づいてくる。


「凛月、すげーかわいい」
「っえ!?」


綺麗な顔で微笑まれて心臓が飛び跳ねる。
そうだ、自分の格好のこと、流川くんのことで一瞬忘れてた……!


「ドレスもメイクも似合ってる」
「あ、ありがとう……!」


は、恥ずかしい……!
顔を上げていられなくなって下を見る。

すると、イヤリングにそっと触れられてすぐに視線が戻った。


「……付けてくれてるんだ……ほんとにかわいい」

「ちょ、ちょっと待ってっ……!」


そんな顔で微笑まれたらまた変になる。
直球で褒めたら勘違いするから気をつけてって、流川くんが言ってたのに。


嬉しいけれどなんだか腑に落ちない。
だから。


「……流川くんもすごくかっこいいよ」
「え?」


きょとんとしている彼を見上げる。


「きっちりした格好も、ワックスで整えてる髪型もかっこいい」
「……!」


ちょっと語彙力がないけれど、本心だから許してほしい。
彼は私の意図に気づいたのか、顔が赤く染まっていく。


「……凛月」
「ふふ」


彼のその顔を見たら満足した。
最近ずっと私が照れてばっかりだったし、仕返しが成功したみたいで嬉しい。

ガチャンと扉が開くと、清さんが顔を出す。
カッチリしたスーツを着ていて、"素敵なお祖父さん"という感じがする。


「待たせたね2人とも。タクシーが来たから乗ろうか」

「はーい」


清さんに呼ばれて、パーティー会場へと向かった。