「それはよかった」


流川くんはにこっと微笑む。
いつもと変わらない、優しくてどこか温かい、そんな表情。

だけど、私はいつも通りじゃなかった。
彼を見ているとなんだかとてもドキドキして、顔に熱が集まるのがわかる。


「え、えっと……」


それに何を話したらいいかわからない。
頭が真っ白になる。


「勝手にベッドにお邪魔してごめん。なんか凛月を1人にできなくてさ」


彼は静かにベッドから起き上がる。
変な距離感……こんなに気まずく感じているのはきっと私だけだ。


「あっ、もちろん何も変なことはしてないから!……って、これがバレたら友利に怒られそうだな……」


何ともいえない表情をして、ぶつぶつと何かを言っている流川くん。
そんな顔していてもかっこいいなあ……って、何考えてるんだろう私!


「とにかく、勝手に一緒に寝てごめんな。嫌だっただろ?」

「うっ、ううん、大丈夫!驚いただけだから……」


あれ、やっぱり私なんかおかしい……!
話すだけでドキドキして……今までこんなことなかったのに。


「ほんと?ならよかったけど……あ、コーンスープ忘れてたな」


流川くんがとことこと歩いてこちらに来る。
私のすぐ後ろにある机に置いてあったマグカップを取ると、さっきよりも距離が近くなった。


綺麗な顔、私よりも高い身長、少しごつごつした手。


『……いいよ、我慢しないでたくさん泣いて』


ふと昨日のことを思い出す。
そうだ、私昨日泣いてそのまま抱きしめられて……


「凛月?」
「えっ!?」
「すごい顔赤いけど……」
「だ、大丈夫っ!ごめん、私、先下降りるね!」


自分の分のマグカップを持って、急いで部屋を出た。
もう完全に冷え切ったコーンスープがゆらゆら揺れる。


ど、どうしよう……!
なんか、なんか私変だ……!