タオルで髪の毛や制服を拭かせてもらうと、すこし乾いた。
少なくとも水がポタポタ落ちることはない。
「……っくしゅん!……うう、ご、ごめんなさい」
「はは、いいよいいよ。なんで謝んの」
彼は隣でおかしそうに笑った。
彼のタオルのおかげで、電車で迷惑をかけることはなさそうだ。
でも、冷たい制服のせいでさっきよりも寒い。
早く家に帰らないと、夏とはいえ本当に風邪を引いてしまいそうだ。
「ていうか、くしゃみするくらい体冷えてるよな?俺のでよければ体操服着て帰りなよ。今日着ちゃったのが嫌じゃなかったら、だけど」
「い、いえそこまでしてもらうのは……」
話したことだってない相手なのに、どうしてこの人は私なんかに優しくしてくれるんだろう。
気持ちは嬉しいけれど、なんだか申し訳なくて気が引ける。
「やっぱ使用済みは嫌だよなあ、そんな汗臭くはないと思うんだけど……」
スンスンと悲しそうに自分の体操服の匂いを嗅ぐ彼を見て、もしや傷つけてしまったのではないかと焦る。
「あ、いや、それは気にしてなくて……ええと」
スラスラと自分の言いたい言葉が出てこなくて詰まる。
最近はずっと麻妃としかこうやって話すことがなくて、違う相手にどうしたらいいのかわからない。
「使用済みなのは気にしてない?」
「え、うん……そんなに」
「そっか、じゃあなんで?」
彼の口調は優しかった。
母みたいに、責めるようなきつい喋り方じゃない。
ただ理由が知りたい、子どもみたいな。
だから恐怖で頭が真っ白になることはなくて、考えるとちゃんと言葉が出てきた。
「ええと……なんだか申し訳なくて。私、流川くんと仲がいいわけでもないのに」
ちゃんと伝わったかどうか不安になって、チラッと彼の方を見てみる。
何かに驚いたような顔をしていたけれど、すぐに戻って人懐っこい笑顔を浮かべた。
「なんだそんなことか、安心した!じゃあはい、風邪引いちゃう前に着替えなよ」
ぽんと私の手に彼の体操服が乗せられる。
正直、申し訳なさが無くなったわけではなかったけれど、
「うん……ありがとう、お借りします」
と言って受け取った。
本当にいいのかなと思ってしまうけれど、とてもありがたいのも事実だ。
「じゃあ、トイレにでも行って着替える?」
「え……」
彼はもちろん親切心で言ってくれたんだろうけれど、さっきの出来事が頭をよぎって、うんと咄嗟に返事をすることができなかった。
彼はそんな私を見て察したのか、
「あー……ごめん、無神経だった。じゃあここで着替える?俺後ろ向いてるし」
と言ってくれた。
「うん……ごめんね」
「いいよそんなの。誰か来ないかついでに見張っとく」
「ありがとう」
彼が後ろを向いたのを確認して、ブラウスのボタンを外す。
こんなところで着替えるのはやっぱりちょっと恥ずかしいけれど……
なんて考えていると、ふと気づいた。
「……っ!?」
制服が透けて下着が見えてる!!!
危うく声が出そうだったけれど、口から空気が漏れただけで声にはならなくて安心する。
今冷静になって考えたら当たり前だけど、さっきまで気にする余裕なんてなかった……
もしかして、と嫌な予感に心臓が痛くなりながら肩に視線を向けると、透けて青い痣が見えてしまっていた。
慌てて腕、お腹、腰や背中も確認する。
悲しいことに、色が濃いものはほとんど目視できてしまった。
さーっと頭から血の気が引く気がする。
もしかして、流川くんは気づいた……?
いやいやいや、ないないない。
自分が気にしてても、他人は意外と細かいところまで見てないって聞いたことあるし。
……でも、体操服を貸してくれたのは、寒くて風邪を引きそうだから、だけじゃなかったとしたら……?
すぐ近くにいる彼に直接聞けばいいのに、なんだかすごく怖くなって、口は開かなかった。
不安な気持ちを誤魔化すように、制服を脱いで、体操服に着替えた。
少なくとも水がポタポタ落ちることはない。
「……っくしゅん!……うう、ご、ごめんなさい」
「はは、いいよいいよ。なんで謝んの」
彼は隣でおかしそうに笑った。
彼のタオルのおかげで、電車で迷惑をかけることはなさそうだ。
でも、冷たい制服のせいでさっきよりも寒い。
早く家に帰らないと、夏とはいえ本当に風邪を引いてしまいそうだ。
「ていうか、くしゃみするくらい体冷えてるよな?俺のでよければ体操服着て帰りなよ。今日着ちゃったのが嫌じゃなかったら、だけど」
「い、いえそこまでしてもらうのは……」
話したことだってない相手なのに、どうしてこの人は私なんかに優しくしてくれるんだろう。
気持ちは嬉しいけれど、なんだか申し訳なくて気が引ける。
「やっぱ使用済みは嫌だよなあ、そんな汗臭くはないと思うんだけど……」
スンスンと悲しそうに自分の体操服の匂いを嗅ぐ彼を見て、もしや傷つけてしまったのではないかと焦る。
「あ、いや、それは気にしてなくて……ええと」
スラスラと自分の言いたい言葉が出てこなくて詰まる。
最近はずっと麻妃としかこうやって話すことがなくて、違う相手にどうしたらいいのかわからない。
「使用済みなのは気にしてない?」
「え、うん……そんなに」
「そっか、じゃあなんで?」
彼の口調は優しかった。
母みたいに、責めるようなきつい喋り方じゃない。
ただ理由が知りたい、子どもみたいな。
だから恐怖で頭が真っ白になることはなくて、考えるとちゃんと言葉が出てきた。
「ええと……なんだか申し訳なくて。私、流川くんと仲がいいわけでもないのに」
ちゃんと伝わったかどうか不安になって、チラッと彼の方を見てみる。
何かに驚いたような顔をしていたけれど、すぐに戻って人懐っこい笑顔を浮かべた。
「なんだそんなことか、安心した!じゃあはい、風邪引いちゃう前に着替えなよ」
ぽんと私の手に彼の体操服が乗せられる。
正直、申し訳なさが無くなったわけではなかったけれど、
「うん……ありがとう、お借りします」
と言って受け取った。
本当にいいのかなと思ってしまうけれど、とてもありがたいのも事実だ。
「じゃあ、トイレにでも行って着替える?」
「え……」
彼はもちろん親切心で言ってくれたんだろうけれど、さっきの出来事が頭をよぎって、うんと咄嗟に返事をすることができなかった。
彼はそんな私を見て察したのか、
「あー……ごめん、無神経だった。じゃあここで着替える?俺後ろ向いてるし」
と言ってくれた。
「うん……ごめんね」
「いいよそんなの。誰か来ないかついでに見張っとく」
「ありがとう」
彼が後ろを向いたのを確認して、ブラウスのボタンを外す。
こんなところで着替えるのはやっぱりちょっと恥ずかしいけれど……
なんて考えていると、ふと気づいた。
「……っ!?」
制服が透けて下着が見えてる!!!
危うく声が出そうだったけれど、口から空気が漏れただけで声にはならなくて安心する。
今冷静になって考えたら当たり前だけど、さっきまで気にする余裕なんてなかった……
もしかして、と嫌な予感に心臓が痛くなりながら肩に視線を向けると、透けて青い痣が見えてしまっていた。
慌てて腕、お腹、腰や背中も確認する。
悲しいことに、色が濃いものはほとんど目視できてしまった。
さーっと頭から血の気が引く気がする。
もしかして、流川くんは気づいた……?
いやいやいや、ないないない。
自分が気にしてても、他人は意外と細かいところまで見てないって聞いたことあるし。
……でも、体操服を貸してくれたのは、寒くて風邪を引きそうだから、だけじゃなかったとしたら……?
すぐ近くにいる彼に直接聞けばいいのに、なんだかすごく怖くなって、口は開かなかった。
不安な気持ちを誤魔化すように、制服を脱いで、体操服に着替えた。



