たどり着いたのは、体育館裏だった。
誰もいない、人ひとりすら通らない静かな場所。
コンクリートの床にそっと座る。
スカートが濡れてて気持ち悪いけど仕方ない。
『モデルの麻妃にかばってもらってるからって調子のんな』
『ざまあみろ、大して美人でもモデルでもないのに、麻妃とつるむからイジメられちゃうんだよー?』
この言葉が今更胸に突き刺さって痛い。
きっとみんなにそう思われてるって、自分が一番わかってたのに。
私がいなかったら麻妃はきっと、誰にでも好かれて幸せな高校生活が送れてた。
きっと今からだって遅くない。
彼女は、美人でかわいくて、正義感があって、優しいから。
他にも彼女のいいところなら、いくつだってあげられる。
私が麻妃から離れれば、悪く言われることも、笑われることもない。
わかってるのに……
「……っ」
泣きたかった。
泣いてスッキリしたかったけれど、涙は出てこない。
全身水に濡れてて、泣いたってわからないのに。
もう辛くて悲しくて仕方ないのに、なんで泣けないんだろう。
頭のなかも心だってぐちゃぐちゃで、自分のことなのに全然理解できない。
こんなに惨めで、弟にブスって言われるくらいかわいくなくて、一人だけの友達すら大切にできない自分なんて、私だって大嫌いだ。
いいことなんて何もない。
夜が明けることなんてないんだ。
私もみんなみたいに普通に生活したいだけなのに、何がいけないの。
だれか教えてよ……
「おわっ!え、大丈夫!?」
「え……」
声がした方を見ると、ひとりの男子が立っていた。
私の方に近寄ってくると、そのまま目の前でしゃがむ。
「びしょ濡れじゃん!寒くない!?えーと、なんか拭くもの……」
心配そうな顔をしたかと思ったら、その男子はかばんの中に手を入れて何かを探し始めた。
この人、知ってる……
確か1組の流川くんだ。
下の名前までは知らないけれど、1年生のとき、めっちゃ綺麗な美形がいる!ってみんなが言ってて有名だった。
私はそういう話に疎かったけれど、麻妃も『あいつは確かに美形だ』って認めてたから、なんとなく覚えてる。
今まで話したこともなければ、たぶん目も合ったこともない相手だ。
「あ、タオルあった!洗濯してまだ使ってないから安心して!」
かばんから黒のタオルを取り出すと、そのまま私の頭にふわっとかぶせてくれた。
柔軟剤の優しい、いい香りがする。
「あー……でもそれだけじゃ寒いよな、体操服ならあるんだけど、今日着ちゃってるからなあ」
急展開に頭がついていかず、うーんうーんと悩む彼をぼーっと見ていて、はっとする。
「あ、あの!ごめんなさい、タオル濡れちゃう!」
「え、いいよ。むしろ使って。風邪引いちゃうだろ?」
ほら髪の毛拭いてーと、タオル越しに頭を優しくゴシゴシされる。
不思議な気分だった。
こんなこと、誰にもされたことなかったから。
まさか16歳になって、誰かに髪の毛を拭かれることになるなんて。
「……ありがとう」
「いーえ、どういたしまして」
ふと目が合うと、優しく微笑まれた。
みんなの言う通り、とても綺麗な顔だった。
誰もいない、人ひとりすら通らない静かな場所。
コンクリートの床にそっと座る。
スカートが濡れてて気持ち悪いけど仕方ない。
『モデルの麻妃にかばってもらってるからって調子のんな』
『ざまあみろ、大して美人でもモデルでもないのに、麻妃とつるむからイジメられちゃうんだよー?』
この言葉が今更胸に突き刺さって痛い。
きっとみんなにそう思われてるって、自分が一番わかってたのに。
私がいなかったら麻妃はきっと、誰にでも好かれて幸せな高校生活が送れてた。
きっと今からだって遅くない。
彼女は、美人でかわいくて、正義感があって、優しいから。
他にも彼女のいいところなら、いくつだってあげられる。
私が麻妃から離れれば、悪く言われることも、笑われることもない。
わかってるのに……
「……っ」
泣きたかった。
泣いてスッキリしたかったけれど、涙は出てこない。
全身水に濡れてて、泣いたってわからないのに。
もう辛くて悲しくて仕方ないのに、なんで泣けないんだろう。
頭のなかも心だってぐちゃぐちゃで、自分のことなのに全然理解できない。
こんなに惨めで、弟にブスって言われるくらいかわいくなくて、一人だけの友達すら大切にできない自分なんて、私だって大嫌いだ。
いいことなんて何もない。
夜が明けることなんてないんだ。
私もみんなみたいに普通に生活したいだけなのに、何がいけないの。
だれか教えてよ……
「おわっ!え、大丈夫!?」
「え……」
声がした方を見ると、ひとりの男子が立っていた。
私の方に近寄ってくると、そのまま目の前でしゃがむ。
「びしょ濡れじゃん!寒くない!?えーと、なんか拭くもの……」
心配そうな顔をしたかと思ったら、その男子はかばんの中に手を入れて何かを探し始めた。
この人、知ってる……
確か1組の流川くんだ。
下の名前までは知らないけれど、1年生のとき、めっちゃ綺麗な美形がいる!ってみんなが言ってて有名だった。
私はそういう話に疎かったけれど、麻妃も『あいつは確かに美形だ』って認めてたから、なんとなく覚えてる。
今まで話したこともなければ、たぶん目も合ったこともない相手だ。
「あ、タオルあった!洗濯してまだ使ってないから安心して!」
かばんから黒のタオルを取り出すと、そのまま私の頭にふわっとかぶせてくれた。
柔軟剤の優しい、いい香りがする。
「あー……でもそれだけじゃ寒いよな、体操服ならあるんだけど、今日着ちゃってるからなあ」
急展開に頭がついていかず、うーんうーんと悩む彼をぼーっと見ていて、はっとする。
「あ、あの!ごめんなさい、タオル濡れちゃう!」
「え、いいよ。むしろ使って。風邪引いちゃうだろ?」
ほら髪の毛拭いてーと、タオル越しに頭を優しくゴシゴシされる。
不思議な気分だった。
こんなこと、誰にもされたことなかったから。
まさか16歳になって、誰かに髪の毛を拭かれることになるなんて。
「……ありがとう」
「いーえ、どういたしまして」
ふと目が合うと、優しく微笑まれた。
みんなの言う通り、とても綺麗な顔だった。



