「はぁー」っと皐月くんの大きなため息が聞こえてきた。あからさまな困り顔。私はやらかしてしまったのだと嫌でも気がつく。
“バレてしまった”
“胡桃はもう必要ない”
要するにそういうことだ。込み上げてくる悲しみとか、悔しさとか、皐月くんを大好きな気持ちが涙になる前に私はふたりから視線を背けて俯いた。
「……あの、すみません、」
「……」
「知ってる人に似ていたので……見間違えてしまったみたいです……。失礼します」
「は?」
皐月くんの声音が聞こえたけれど、早くこの場所から消えたくて、目の前の綺麗な女性と自分を比べて、皐月くんの瞳に映っている今の自分が惨めで。
俯きながら精一杯に言葉を吐き捨てて、込み上げる感情を殺し逃げるように、全力でふたりの横を通り過ぎた。
「そりゃ、そうだよ。皐月くんだって遊びたいよ……、て、遊び相手が私か……」
冷静になって考えれば分かることなのに。11歳も年下でまだ学生の私なんか、大人で仕事のできる、かっこいい皐月くんが本気で相手にするわけないのに。だいぶ、自惚れてたな私。
別れるのかな、てか籍入れてるから離婚になるのか。
そもそも、籍入れてるのかな。それさえ、嘘だったら?そんなことさえ分からなくなる。
無心で歩いて気がつけば家に着いていた。
家に着いて、電気をつけることなくベッドの中で丸まった。
我慢していた涙を流して、それでも枯れなくて、私はそのまま疲れて眠りについた。



