オトナだから愛せない





《出るのが遅い》

「……皐月くん、普通は、もしもしだよ」

《は?意味が分からない》

「いや、電話の第一声は“もしもし”が鉄板かと……」

《バカ》




いやいや、普通電話の第一声といったら“もしもし”でしょうがと諦めきれない感情を残しつつ、声色と口調から皐月くんがなんだか不機嫌極まりないことを察知した私は「ごめんなさい……」とひと言謝罪をした。




「こんな時間に電話なんてどうしたの?」




廊下を進み、階段を上がる。空き教室ばかりが並ぶ階まで到達し、人のいない、まるで昼休みを感じない踊り場で壁に背をつけてしゃがみ込んだ。




《泊りがけの勉強会、誰に誘われたんだよ》

「え、おんなじクラスの杉野くん」

《バカ、男に誘われてノコノコついて行くなよ》

「違うよ、友達の秋ちゃんも一緒で、」

《バカ、友達がいようが、いなかろうが関係ないんだよ》




電話越しの皐月くんの声がいつも以上に低くて、緊張のせいかゴクリと唾を飲み込んだ。




《明日は、俺に付き合え》

「え、?」

《明日は休みだ。ちょうど新しいスーツを買いに行こうと思ってたところだから俺の買い物に付き合え》

「お休みなの?私が皐月くんのスーツ選んでもいいの?」

《いや、選んでいいとは言ってない》

「……」




いつもは買い物に行くのも、出先で誰に会うか分からないからとひとりで出かけることの多い皐月くんが、皐月くんから一緒にお買い物の提案をしてくれるなんて。