「そんな離れて歩いてたら濡れるだろ」
「あ、ごめん、ありがとう」
突然触れた皐月くんの体温に思わず胸が鳴った。傘の中ってまるで秘密基地みたいだ。
「てか、胡桃お前傘持ってないのになんで濡れてないんだよ」
「同じクラスの杉野くんがここまで傘に入れてくれたの」
「杉野くん?」
「うん。同じクラスのサッカー部の男の子」
私がそう言えば皐月くんはぴたりと足を止める。
あと、数メートルでマンションに着くというのに何事でしょうか。湿った靴を早く脱ぎたいと思いつつ皐月くんの顔を覗き込んでみた。
「皐月くん、どうしたの?」
「お前、本当にバカ」
「え、なんで!?」
「なんで、傘持って行かなかったんだよ」
「だって雨が降るなんて知らなかったし」
「天気予報見ろ、バカ」
「なにさ、バカバカって!」
「スマホ見ろよ、本当にバカ、アホ」
「あ、ちょっとまた!」
さきほどまで一緒にいた杉野くんならきっとこんなこと言わないんだろうななんて思いながら、皐月くんに杉野くんの爪の垢でも煎じて飲ませてあげたい気分だ。
明日、折り畳み傘でも買いに行こう。明日から毎日天気予報を見よう。今後は絶対、傘を忘れて雨の日に皐月くんにバカにされないようにしよう。そう強く心に決める。



