マンションのエントランスに入り、エレベーターに乗り込む。
皐月くんは無言。さっきまで機嫌がよかったのが嘘みたいだ。私の放った「ケチ」という言葉にどうやらヘソを曲げてしまったらしい。
無言の私たちをエレベーターは上へと運んでいく。そして、チンっと軽快な音と共に開いた扉。
内心、もっと空気を読んだ音にしてよ。なんて身勝手にも程があるクレームを溢しながら、先に歩き出した皐月くんの背中を追う。
あーあ、このまま無言でお別れか。おやすみくらい、言っても許されますか……?
私の家の前を通り過ぎていった皐月くん。私は自分の家の前で足を止めて恐る恐る皐月くんの背中に言葉を投げた。
「……じゃあ、皐月くんおやすみなさい」
ガチャリと鍵穴に鍵を差して、ノブを回す。と、
「胡桃」
私の名前を呼んだ皐月くんが、こちらに戻ってくる。するりと首に腕を回され、一瞬で皐月くんに包み込まれた私の身体は硬直して動けない。
「皐月、くん……?」
「ダメだ。胡桃のことからかいながら結構、真剣に考えたけど。無理だ」
「それって、私の好きなところ……?」
私が問えば、皐月くんは私の首元でこくりと頷いた。
そっか、無理か……。皐月くんのせいじゃない。皐月くんにここが好きって言わせられない私のせい。
「私、もっと頑張るね。皐月くんに、好きになってもらえるように……」
「頑張るな」
「え……」
「これ以上、好きにさせてどうするつもり?」
「でも、好きなところが思いつかないって、」
「バーカ。好きなところしかなくて、」

バカなのは皐月くんじゃんか。
そのひと言で、十分です。



