「服部先生は、医師としても人としても、そして男としても尊敬するしすごい人だよ。
その先生が唯一感情のコントロールを失うのが高橋さんのこと。
…まぁわかってるでしょ?
どれだけ大事にされて愛されてるかは。」

くすりと笑うと遠くに目を向けた。

振り向くと口をへの字にした不機嫌な服部先生が大股で歩いてくる。

延びてきた手に腕を引かれ、先生に抱き締められた。

「…何泣かしてんだよ」

「泣かしてませんよ。
ひどいな、先生の従順な後輩なのに。今も悪い虫から守ったのに心外だな」

「悪い虫?」

抱き締める腕に力がこもる。

「えぇ。
もう、近づくことはないと思いますが。
じゃあ、お迎えがきたから俺は帰りますよ。
お疲れ様高橋さん」

背中に聞こえる声に、抱き締められたままの私は動くことができない。

泣きそうな顔を見られたくなくて、ぎゅっと先生の白衣をつかんだ。