「きゃあぁぁぁ! 貴史ー! 早くはやくぅ。響ちゃんが、響ちゃんがぁ!」
こ、今度はなによ。
カウンターの奥、階段の上から、なんとも悲痛な叫び声。うーん、間違いなく燈子さんの声だね。
「今行くー」
と、貴史ちゃん。そんなにのんびりした返事でいいのかねぇ。
一大事ともとれる燈子さんの声に、何故か慌てた様子もなく階段を登る。
「貴史ちゃん、急がなくて平気なのー」
と、一応俺。
階段の中腹で、貴史ちゃんは振り返って、真剣な眼差しで俺に一喝。
「たすく、絶対来るなよ!」
え? 絶対来いって言った?
俺、あまのじゃくなのよ、貴史ちゃん。
多分、この店の構造は、カウンターの奥の扉から向こうが、プライベートゾーン・貴史&燈子の愛の巣って事で間違いなさそう。
さすがの俺でも、いくら未来のお兄さんの家っていったって、断りもなく足を踏み入れるのは気が引けちゃうけど……。
にしし。絶対来いって言われたら、ねぇ。
「おじゃましまーす」
階段下の玄関らしきスペースに、革靴をきちんと揃えて、2階へ向かった。



