彼女を10日でオトします

「よお、貴史ちゃん。ご機嫌いかが?」

 男はむっくりと起き上がって、抑揚のない声で言った。

「と、とっ」

 貴兄は目を丸くして、言葉にならない声を発す。

 ゆっくり立ち上がった男は、首に手を当てて左右にリズムよく振ると、

「ふうん。お姉さんのリング、どこかで見たことあると思ったら、貴史ちゃんだったのね。
なるほど、こちらの『綺麗な』改め『アグレッシブな』お姉さんは、貴史ちゃんの奥さんね。名前は、燈子さん。
と、いうことは、この可愛いドレスのキミが『在原響子』ちゃんかあ」

もう一度、私の目の前にしゃがんで、私の頬をつついた。

「よろしくね、可愛いキョウコちゃん」

「と、戸部たすく!!」

 やっと、声を取り戻した貴兄は、その声を存分に張り上げた。

 ん?

 戸部たすくですって!? 戸部たすくぅぅぅぅ!?

「はあい」

 と、戸部たすくは、ゆるーい返事をかます。笑顔で、しかも、片手を挙げて。

 ひゃ、100マタ戸部たすく!

「な、なんで私の名前を……!?」

「ん? 燈子さんがバスの中で教えてくれたのよ」

 お姉ちゃんが!?

 ……ということは。

「バスの中でお姉ちゃんをナンパしたのは、あなたなの……!?」

「ああ、そんなこともあったかな? それよりも、『あなた』なんて呼ばないでよ。
たっしーって呼んで?」

 戸部たすくは、極上の微笑みを私に向けた。

 ほ、保健室であんな事して、100マタで、なおかつ合コン行って、その上妊婦のお姉ちゃんをナンパしたのは――目の前で無邪気に笑うこの男!?