彼女を10日でオトします

「ほーら、泣き止んだ。俺、可愛い子泣き止ませるの得意なんだ」

 一瞬、眩しい。目を思わず細めてしまいそうになる眩しい笑顔。

 本当だ。いつの間にか嗚咽が止まってる……。

 男の笑顔をすぐに消えて、それにかわって困ったように眉尻を下げた。

「かわいいなあ。たまんねえ。……キスしていい?」

 え、ええと、何?
 キスってなんだっけ?

 突拍子のない言葉が飲み込めず、呆然とする私を目を細めて見つめる。熱がこもったその眼差しに背筋がぞくりと震えた。

 男は顔を傾けて、形のいい顎をゆっくりと伸ばす。

 ばくん。心臓が破裂しそう。

「なにをさらしとんじゃこのボケカスがああああ!」

 急に視界がひらけて、目線をあげると……お姉ちゃん!?

 目の前には、肩で息をしたお姉ちゃんが仁王立ちしていた。

「大切な妹を泣かせておいて、まだキスするか、オノレはぁ!!」

 視線を下げると、仰向けに倒れた男が目をぱちくりして、お姉ちゃんを見上げている。

 た、たぶん、この男は、お姉ちゃんに突き飛ばされたのだろう。

「お、お姉ちゃん……、あのね、ご立腹のところ悪いんだけど――」

「燈子! 何事だ!?」

 聞き覚えがある声に、目を向ければ、カウンターの奥の扉から貴兄が飛び出して来た。

「貴史! コイツ、響ちゃんに……!」

 お姉ちゃんは、床に寝そべる男を指差した。

「なに!? 響ちゃんがどうし――」

 男に駆け寄る貴兄の動きが止まった。