彼女を10日でオトします

「はあ? 言ってる意味が――」

 男は言葉を途中で切って、そして、大きく頷いた。

「ああ、そういう事ね。ふんふん。そういうことか」

 すると、男は柔らかく微笑んで、私の首に片腕を回した。

 ぐいっと引き寄せられる。背中にもう片方の手を添えられて、さらに強く引き寄せられた。

 それは、とても自然な動きで、気づけば、男の胸に身体を預けていた。

 「だいじょーぶ。だいじょーぶ」

 私の側頭部に頬を寄せて囁くようにつぶやいた。ひょうひょうとした声が鼓膜をくすぐる。

 途端、私の中で何かが弾けとんだ。

 波が一気に押し寄せる。

「え……っく……うえっ……」

 頭の中に響くこの嗚咽は、私のものだろうか。久々に聞いた。ひどく懐かしい気がする。

「いいこ、いいこ」

 優しい、澄んだ声に、不思議な浮遊感を覚えた。

 背中をさする手のひら。レース越しでも、充分な温もりを感じる。

 あたたかい。なんて温かいのだろう。

 手の平だけじゃない。この胸も温かい。

「ねえ、メロンフロートって知ってる?」

 メロン……? さっきと変らないトーンが茹だった頭に心地いい。

「メロンソーダの上にバニラアイスが乗っかってるんだけどね。
俺さあ、まず、かき回しちゃうの。そうすると、アイスがソーダの中に溶けるでしょ? それねえ、俺の大好物なのよ。もうね、一番好き」

 男の言葉は、私の脳にゆっくりと沈んでいく。

「キミの目、俺の好きなメロンフロートの色」

 男はおもむろに距離をとって、もう一度顔をつき合わせた。しかし、すごく近い。鼻先が触れそうな距離。