彼女を10日でオトします

 今、なんて言った?

「綺麗な緑色。羨ましい。
ねえ、その目、自前?」

 何言ってるの? この男。頭、おかしいんじゃない?
 
 それとも、おかしいのは私の耳? 信じられない言葉が羅列していたような……。
 目だけじゃなくて、耳まで壊れちゃったの?

「ねえ、聞いてる? それとも、無視しちゃってんの?」

 男はムッとしたのか、眉間にしわを寄せて私を見下ろす。
 
 そして、私の前に回って、目の前にしゃがみこんだ。片膝に上腕を乗せて頬杖をつく。

 男の健康な鳶色両目が、左右色違いの私の瞳を見つめる。
 
 驚いた。男は、右の黒い正常な瞳と、左の白濁した異常な瞳を分け隔てなく凝視する。他の人がするように、景色を映さない左目だけを見つめたりはしなかった。

「まあ、自前だろうね。これ、落としたぐらいだし」

 私の目の前に平然と手のひらを差し出した。その上には、当たり前のように私の『義眼』が乗っていた。

 吸えるだけの空気を一気に吸ってしまった。本当に驚いたときって、声さえ出ないと知った。

「それ……気持ち悪くない……の?」

 それだけ言うのが精一杯で、しかも、ちゃんと声になっているのかさえ怪しいものだ。

「何が?」

 男は小首をかしげる。なんとなく板についた仕草。

 私は、男の手の上の目玉を指差す。震える指先。視界に入って、自分の指が震えていることにはじめて気づいた。