彼女を10日でオトします

「あの!!」

 男は突然立ち上がって、何を思ったかこっちに歩いてくる。
 来ないで。そう言いたいのに、声が出ない。

 男の足が机に当たった。
 男は、私の瞳をじっと見つめる。

 手がゆっくりと伸びてきて……。
 
 嫌!!

 男の指が、私の頬に触れた途端、今まで感じたことのない恐怖が私を支配した。思わず立ち上がる。

 私は、机を力いっぱい押しのけて、扉に向かって駆ける。

 私の肩は何かにぶつかって、わけのわからないうちに反対側の肩が壁に激突した。

 男が私の腕を掴んでる。そう感じるやいなや、私の心臓は大きく波打った。

 何? 怖い……!

 男の腕を振りはらって、部屋の外に飛び出した。

「響子!!」

 お姉ちゃんが私を呼ぶ。私は、その声に答えることができずに、その場にへたり込んでしまった。

「あなた、響子に何をしたの!?」

 お姉ちゃんの怒鳴り声。違う、違うよ、お姉ちゃん。その人は何もしてないの……。

「ねえ、落し物」

 凛として透き通るような声。

 落とし物? あ、義眼が!
 
 肩を叩かれたことで心に決めた。……もう一度確認してみよう。
 見えないなんて、そんなことあるはずがないもの。裸眼ならもっとはっきり見えるはず。

 勢いをつけて振り向く。
 男の冷静な瞳が一瞬で大きくなった。私の左目を凝視する。

 駄目……。見えない……。
 どうして? どうしよう……。

 数字が見えない私なんて、ただのお荷物じゃない……。

「きれいな目……」

 え?