薄暗い個室の中でひとり、揺れるキャンドルの灯りを見つめて思う。
物心がついたときから貴兄が好きで。でも、気づいたときには、お姉ちゃんと貴兄は愛し合っていた。
自分の中で様々な理由をつけて、気持ちを消そうとしてきたつもり。
『私と貴兄は10歳も離れているのよ、私が20歳になったら貴兄はオジサンじゃない』
『貴兄は男の癖に虫も触れないのよ、そんな情けない男は嫌だわ』なんて。
それでも、いくら理由をつけたって駄目だった。
貴兄が優しく抱きしめてくれるたび、頭を撫でてくれるたび、穏やかな笑顔を向けてくれるたび、私の決意は揺らぐ。
生まれつき気味の悪い色をした瞳にキスをしてくれるたび、好きだと実感する。
もう一度、心に刻みこまないと。
貴兄の心は、お姉ちゃんのもの。私がいくら願っても祈っても振り向いてくれない、と。
正面の扉が開いて、光が差し込む。
スーツを着込んだ大人の女性。
今日、最初ののお客さんはまりこさんね。
「まりこさん、いらっしゃい」
「先生、相変わらずお綺麗ですね」
まりこさんは、椅子に腰を下ろしてにっこりと微笑む。
その頭の上には、8、10、14、18、22。
『パートナー』『疑い』『寂しい』『不安』『女』
「恋人を疑っているのね、まりこさん? 浮気しているのではないかと」



