「たすくさん!!」

 キョンの声。
 重たい瞼を上げると、キョンが必死な形相が目に入った。

「いい加減にしなさいよ!!
たすくさん、あなた、バカでしょ!?」

 キョンの片方の瞳、緑色の表面に、俺の顔が映る。
 メロンフロートの中の俺は、自分でも見たことがないくらい、優しい顔をしていた。

 なんだ、こんな顔ができるんじゃん、俺。

「何とか言いなさいよ!!
ひっぱたくわよ!!」

「ひっぱたかれちゃ……堪んないよ、キョン。
俺、いちお……川岸から、キョンに手を差し伸べたつも――」

「煩いわね!!
いいから、黙りなさい!!」

 ど、どっち?

「川……原は……?」

「喋らないでって言ってるでしょ!?
あの人なら、どっか行っちゃったわよ!!」

 そうか。よかった……。

「こんなのね……こんなの……。
助けたうちに入らないのよ!!
たすくさんが……」

 キョン、泣いてるの?

 俺の肩を抱く、キョンの腕に力が入る。
 暖かいものが、俺の頬に落ちた。

 ねえ、キョン、もったいないよ。
 俺の為に泣いてくれてるんだとしたら、涙がもったいない。

 駄目だ。キョンの顔がかすれて……。

 ああ、やっぱり、キョンの考えは外れたね。

 俺には、ずっと『11』が浮いていたんだ。
 キョンが見えなかっただけ。

「たすくさん!!
目、開けなさいよ!!
早くあけないと、ただじゃおかな――」

 キョンの声までかすれてきた。
 最後にキョンの声を聞くことができたなんて、俺、ラッキー。

 もう、おれ、だめかも……。



 瞬間、プツ、と途切れた。