「琴実!!」

 俺は、琴実の横に立った。

 やっぱり。

 琴実は、その両手に刃物を握り締めていた。
 刃渡り10センチ程度の、果物ナイフ。

「ぼっちゃん……?」

 右に川原。

「たすく……もう大丈夫だよ。
こんな不潔な男、私が殺してあげるから」

 琴実はうつろな瞳で俺を見上げた。
 シャブでラリってやがる……。

「琴実、こんなことしなくていいんだ。
俺の気は済んだ。
だから、もう……」

「悪いことしたヤツにはお仕置き、でしょ?
たすく、いつも言ってたじゃん。
それに、私のね、気は済んでないんだ!!」

 琴実は、ナイフを握り直した。
 手が震えてる。

「兄ちゃんなんか、兄ちゃんなんか……。
死んじゃえ!!」

 無意識のうちに俺は、琴実の前に飛び出していた。

 わき腹に衝撃が走った。琴実が突き出したナイフが俺の腹に刺さっていく。

 俺の中に僅かに残っていた良心がそうさせたのか、後悔の念がそうさせたのか。

 あるいは、空っぽになった俺の本能が『死』を待っていたのか。

 この時は、わからなかった。

 ただ、絶叫を上げる琴実に、薄れ行く意識の中、

「俺が自分で腹を刺したんだ。
琴実は何もしてない。誰にもいうな、約束。
こんなことで、お前が罪を被る必要はないんだ……」

 確かに俺はそう言った。