「ミス……?」

「そう。致命的なミス。
例えば……」

 川原は、そこで言葉を切った。

 チキチキチキ。
 
 なんだ? この音……。
 川原が後ろに回した手から聞こえる。

「君があの時、私の前に飛び出したことによって、この3年間、どれだけ私が苦しんだか、わかってない」

 チキチキ。

「君に復讐する日を、私がどれだけ待ち望んできたか、わかってない。
最後に、こんな風に思っている男に、必要以上の金を持たせた。
お陰でコレが買えたわけだ」

 チキチキチキ……。

 まずい。この音って。

 まさかこいつ――

「坊ちゃん、私はね、3年間、ずっと考えていたんだよ。
人間、何をされるのが、一番耐えられないかって」

「キョン!! 逃げろ!!」

 後ずさりしながら、キョンに向かって叫んだ。
 キョンは、呆気に取られた顔で、俺を見上げる。

「答えはね、すぐ隣にあった。
君が、琴実に腹を刺されてから、お前の母親は狂った」

 ふくらはぎにベンチが当たる。

「響子!! 早く!!」

 キョンの腕を掴んで、力いっぱい引き上げる。

「わかるかい?
『自分のせいで、大切な誰かが傷つく』ことが――」