高智さんがニヤリと笑う。

「まさか、まだやるとは思いませんでしたよ。嘘探し」

 はあ、と息を吐いて、乗り出していた身をソファーの背もたれに預けた。

「たすくの顔を見ると嘘をつきたくなる」

「うわ、最低人間だ」

 自分の口から出た『最低』という言葉に胸がチクリとした。
 それから、もう聞けないかもしれない、ふてくされた可愛い声が頭の中を通り過ぎた。

「最低じゃないヤクザがいたら、今すぐここにつれて来い」

 くっくっと、喉をならす高智さん。

 ただの駒だと思われていても、俺はこの人も嫌いじゃない。

「それで。琴実の兄貴――川原には売らないでもらえます?」

「心配なのか?」

 嬉しそうに目を細める高智さんに、かっと、はらわたが煮える。

「何がですか?」

「お前の母親」

 予想していた名詞。予想はしていたのに、じわりと口の中が苦くなった。

「ちゃんと『元』をつけてくださいよ。
心配するくらいだったら、あんなことしませんでした」

「復讐で血の繋がった母親をシャブ漬けにするくらいだもんな」

 うん、キョンの言った通りなんだ。
 俺、最低なんだよ。

 あの女――俺の人生を狂わせた母に復讐するために、母を寝取った川原に覚せい剤を売りつけて犯罪の片棒を担いだ俺は……。

 間違いなく最低だ。