「そうですね。景気はどうですか?」

「景気が良い所をさがす方が困難だろ」

「落ち込んでるんですか?」

「ヘルス、ピンサロ、フロ、キャバクラにホストクラブ。
底なしだ。もちろん、これも」

 高智さんは、結晶入りの子袋を皮肉めいた顔のよこで振った。

「でも、金って、あるところにはあるんですよね」

「ほう」

「高智さんだって、わかってるじゃないですか。
だから、俺みたいなガキと喋ってる」

 膝に肘を乗せて身を乗り出した俺を、爬虫類と似た冷たい瞳で無表情にみつめる。
 
 高智さんにとって俺は、ただの駒。政治家戸部というとびっきりの後ろ盾を作る為の。

「『エレン』にいた、ナナさん、覚えてます?」

「ああ、お前がさばいてたクサキチガイのホステスだろう?」

「最近会いました」

「そう言えば、最近見ないな」

「面白い話があるんですよ。と、それをセットで」

 高智さんがつまんでいる袋を指差した。

「だから、もう、川原にはさばかないでほしいんです」

 高智さんは、子袋をテーブルに投げ出して前髪をかきあげた。
 すぐに形のいい額は、はらりと、おりたそれに隠れた。

「はは。たすく、さっきまで俺の言葉に納得してただろう?」

「ついさっきまでは、高智さんの言葉で他のルートだと思ってたんですけどね。
今のご時勢、メリット云々言ってられないみたいなんで。
それに高智さん、煙草、すぐ消してましたし」

「それまで気づかなかったか。
昔のお前なら、俺の第一声で気づいただろうな」

 あの頃は、何に対してもピリピリしてたからだろうね。
 でも、俺、今は。

「フツーのコウコウセイですから」

「くえない腹にイチモツ元中学生だろ」