この部屋はただっ広い洋間に黒革のソファー、テーブルは木製。隣の部屋の金庫とデスクの引き出しの中身さえ見なければ、ただのマンションの一室。

 高智さんは、デスクに座っていた。

「高智さん、ご無沙汰してます」

 目の前に立って頭を下げると、

「つい最近まで鼻垂らしてた坊主が、雨に打たれて色男の演出か?」

 と声が降ってきた。

 話の内容と口調が正反対なのは相変わらず。
 高智さんはひとことひとことゆっくりと、冷静に発音する。

 顔を上げると、高智さんは、両手をせわしなく動かしながらパソコンのディスプレイに視線を落としていた。

 ディスプレイのバックライトが反射して、高智さんの通った鼻筋を強調する。

「手土産に女でも、と思ったんですけど、ね」

「それで収穫は」

「見ての通りです」と手のひらを高智さんに見せる。

 やっと俺の顔を見た高智さんは、ふっと鼻で笑ってノートパソコンのフタをとじた。

「たすく、いくつになった?」と、椅子から立ち上がる。

「17、高2です」

 高智さんは、ソファーに座り、足を組んだ。

「最後に顔を見たのは、あれは、中2の終わりか。
どおりで俺も歳くったはずだ。
まあ、座れよ」

 高智さんの真向かいに座る。

「それで」と言った高智さんは、ダークスーツのうちポケットから煙草を取り出した。すかさずノリさんが火をつける。

 薄い唇から紫煙が細く吐き出された。

「何の用だ?」

「見て欲しいものがあるんです」

 端正な顔から、すーっと薄い笑みが漏れる。

 相変わらず、冷たい顔で笑う人だ。