「腑にオチねえ顔すんなって。
例えば、な。人間ひとりひとりに性根っていう針金が一本、性格の芯に入ってるとするだろ。
ヒデや俺、あんたなんかも、生まれた頃からその性根に小さいジャブ何度もをくらってるわけだ」

 針金……。ジャブ……。

 頭の中に思い描く。
 針金をサンドバッグに見立てて、軽いパンチをそれに繰り出す。
 えい、えいって感じかしら。

「そうすると、俺らの針金は小さい歪みがいくつもできちまうけど、やがて太くなる」

 ふむふむ。
 頭の中の針金は、緩やかな波状を描いてはいるけれど、元よりもひと回り大きくなった。

「ところがだ。たすくの場合、やつは、ジャブを親から貰わないで小6まできちまったんだと思う。それまでの家庭環境を聞くと。
針金は、弱くて脆くて、でも真っ直ぐ」

 荒木薫は、椅子に浅く座りなおして、机の上に足を投げ出した。

 たすくさんの家庭環境。政治家のお家ってどういう家庭環境なのかしら……。

「それで、たすくは『あれ』を目撃したんだから、そりゃあ、頭に黄金がつくくれえの右ストレートだろ。
一発でぐにゃり」

「『あれ』?」

 思わず聞き返すと、荒木薫は、まばたきをぱちりとして、それから、くっと眼を細める。

「あんた、聞いてねえの?」

「聞いてない。何、『あれ』って」

 身を乗り出して尋ねると、荒木薫は、苦い顔をして小さく唸った。

「……わりい。俺から話せることじゃねえんだ」

 何よ。本人がいないんだからあなたに聞くしかないじゃないの。

 と、心の中で思うも、荒木薫の苦しそうな顔を見てしまえば、口にするのは阻まれてしまった。