彼女を10日でオトします

 ざわざわする胸のうちをどうにか鎮めようと、深く呼吸をはいて顔を上げた。

 たすくさんは、向かい合わせの机の接合部あたりに、身を乗り出すように頬杖をついて、私の瞳を覗き込む。

「きれい……。やっぱり、きれいだ」

 目を細めて、ぼんやりと呟くたすくさんに、私は、貴重な宝石にでもなったかのような心地になった。

 じいっと見つめられている恥ずかしさと、なんだか自分の存在を認めて貰えたような安心感と、相変わらず続く胸の苦しさがいっぺんに押し寄せて、どうしていいのかわからなくなってしまった。

 今すぐここから逃げ出したいけれど、体の中心からガンガン叩き続ける何かが、それを引き止める。

「キョン……そんな顔するとさ……。
だめ、おいしそう……」

 いきなり。
 たすくさんが立ち上がった。
 拍子に椅子が倒れ、椅子の背もたれが床にぶつかる音が静かな保健室内に響いたころには、たすくさんは机を飛び越えていた。

 そして、私の横に着地したたすくさんは、何を思ったのか、座っている私の背中と膝の裏に腕を差し込んで、上に持ち上げた。

 ふわりと、体が重力を無視する。

 あまりに軽々と自分の体が宙に浮くものだから、いつのまにか小学生に戻ってしまったのかと錯覚してしまったほど。
 
「な、なに!?」

 抱き上げられているという屈辱的ともとれる状態に、思い切り罵倒の言葉を浴びせたいと思うも、出てきた声は素っ頓狂に裏返って、情けない言葉だけだった。

 何かの冗談でやっているのかと、たすくさんの顔を見れば、堪えるように眉根を寄せた真剣な眼差しが返ってきた。

 ここは、笑うところでしょう!?
 笑って、「驚いた?」とかなんとか言うべきだと思うわ!!

「……俺、メロンフロートだけ食べて生きていける自信ある」

 そんなことは、聞いてませんけど!!

 そんな意味がわからなすぎる宣言を耳元で囁きながら歩き出すたすくさんに、私の心境はさらに動揺を極めた。