キョンは、眼鏡のつるに手をかけて、一気に外した。

「これ」手のひらに眼鏡を載せて俺に差し出す。「これ、たすくさんが持っててくれない?」

 いきなりの奇行に戸惑う俺の手をつかんで、キョンはそれを俺に握らせた。

「大丈夫……? これ、無くて、平気なの?」

「数字ばっかりで、疲れちゃうと思うけれど。
眼鏡が無い方が、空の青が綺麗にみえるの」

 キョンは、笑顔いっぱいの顔で空を見上げた。
 笑顔の粒がほろほろ、と零れて、俺の胸を侵食する。

 心臓がつん、として、震えて、苦しくて。
 それでも、嬉しい。

 キョンが笑ってる。
 ちょっと、よくわからないことになっちゃったけれど、いいよ、もう。

 キョンが笑ってるんだもん。

「キョン、抱きしめていーい?」

「さっき、痛いほど、抱きしめてたじゃない」

「じゃあ、ちゅー」

「お礼はもう済んだはずよ」

「はぐむぐ。俺、ちゃーんとこの耳で聞いちゃったんだから」

「何を」

「俺のこと『あなた』って言ったでしょ、さっき」

「い、言ってないわよ」

「言ったね。そういう悪い子には、お仕置きなんだからあ」

 キョンを再び引き寄せた。今度は、優しく、大事に腕の中に収める。

「俺、もう、遠慮しないから」

「初めから遠慮しているようには見えないわよ」

「キョンが誰かに好きだって言おうとしたって、その逆だって、全力で阻止する」

「それ、我が侭っていうんじゃないの?」

「我が侭だって、なんだっていいの。
俺、キョンと幸せになるんだから。決めたの」

 俺の鎖骨におでこを押し付けて、キョンは、「私も、幸せになりたい」と、呟いた。