「たすく、ここに来たって事は、お前、殴られにきたってことでいいんだよな?」

 俺は、貴史ちゃんの力強い瞳から視線を外さないように頷いた。

「何でだよ。なに覚悟してきてんだよ。
いい加減諦めてくれよ。なんで響ちゃんなんだよ……」

 貴史ちゃんの気持ちはよくわかるよ。
 俺だってさ、絶対思うもん。
 のどかが、俺みたいなやつに付きまとわれて、しかも怪我なんかして帰ってきたら、絶対許さない。つうか、半殺しにする。

 でも、貴史ちゃん、ごめん。

 俺、今わかった。

 貴史ちゃん、この気持ちって、理屈じゃないんだわ。

「ごめん。それだけは譲れない。諦められない」

「どうしてだよ……。お前にはいっぱいいるだろうが」

 デスクに両肘をついて頭を抱え込む貴史ちゃんは、行き場を失った怒りを押し出すように、長い溜め息をついた。

「どうしてと言われても言葉じゃ説明できないや。
でも、ひとつだけ言えるとしたら、俺、キョンしかいらない。
もう、キョン以外、考えられない」

 貴史ちゃんは、横目で俺の顔を一瞥して、再びデスクに溜め息を落とした。