「来い」

 こわ……。一言の威力って凄まじい。

 一歩一歩貴史ちゃんが座っているデスクの横に向かう。
 目を細めて、眉間にシワを寄せて、さらに、目を凝らせば青筋がみえそうなくらい額がひくひくしている。

「すいませんでした。キョンが火傷したのは、全て俺の責任です」

 貴史ちゃんの横に辿りついた俺は、もう一度深く頭を下げた。

 俺、こんなふうに謝ったの初めてだ。
 自分の上靴を見つめ、貴史ちゃんの言葉を待ちながら、頭を下げる事になんの抵抗もない現実を不思議に思う。

 今なら、貴史ちゃんが土下座を要求してきたってすんなりできると思う。
 過去とはいえ土下座で俺に許しを請う奴らを、軽蔑し、せせら笑ってきた俺が。

「たすく、顔を上げろ」

 再び合った貴史ちゃんの視線は、鋭利な刃物を思わせた。
 まばたきひとつしないで、俺を突き刺す。

「お前、なんでここに来たんだよ。……来るなよ。
そうすれば、俺だってお前を殴る理由だってできたのによ」

 苛立ちを抑えきれないのか、いつもより口調が荒い貴史ちゃんは、自分の頭をかきむしる。

 殴る理由? じゅうぶんあるじゃん。

「殴ってよ、貴史ちゃん、気が済むまで。
俺、法に訴えたりしないから」

「あほか。訴えられるのが怖くて殴れないわけじゃねえよ。
響ちゃんに釘さされたんだよ」

「キョンに?」

「そうだよ。昨日お前ん家に殴りこもうとしたとき『これは、私が自分でやったの。たすくさんを責めるのはお門違い』ってさ」

 キョンがそんなこと……。
 なさけねえ。キョンに怪我させた挙句、キョンに庇われたってことか……。