彼女を10日でオトします

「のどかさんに謝るべきだと思う」

 ダン、ダン、と硬いバスケットボールが床にぶつかり跳ね返る音、滑ろうとする体育館履きにワックスが抵抗する甲高い音が、鉄の扉に阻まれて微かに聞こえる。

 この至近距離で顔の輪郭すらぼやけて見える暗闇。こっくりとした濃密なカラメルソースの中、キョンの瞳は力強く、光を放っているようにさえ見える。

 それは、意思の塊、とでも言うのだろうか。
 否定は出来ない、何が何でも聞かなければならない、とやや脅迫じみているような気さえしてくる。

 この瞳の前では「どうして?」と訊くことすら野暮なのだ。きっと。

 キョンは、数回、残像を残してまばたきをし、そんな俺の気持ちを感じたのか、再び口を開いた。

「たすくさんにとって……んー、なんて言うのかしら、許せないことが当たり前でも、のどかさんにとって見れば、とても大切なものだってあると思うの」

 視線が強すぎて、眩しすぎて、俺は、目を逸らしてしまった。
 目の前で小さく動く唇を眺めるのが精一杯だった。
 ぼーっとしてきて、自分の頭が揺れているのがわかる。

「それを認めてあげて。
たすくさん、『俺は俺』であるように『のどかさんはのどかさん』であってもいいんじゃないかしら」

 のどかはのどか。

 俺の気持ちや考えをのどかに押し付けるな、と暗に言ってるんだよな、キョンは。

 わかる、わかるよ。本当はわかっていたんだ。
 のどかがアイツのことを憎むことができないという事。のどかは、優しいやつだから。

 のどかはのどか、か。

 キョン、でもそれって……。

「難しいよね、すごく……。キョンのさ、言うとおりなんだけど、ね」