「あれ、俺の親父」
戸部たすくは、部屋の四方をぐるっと一周するように貼られた「ポスター」を指差した。
『若い力、自国民主党、戸部しずる』
「知ってる?」
不安を全面に押し出した顔で、私の顔色をうかがう。不安というよりは、怯えといった方が近いようなきがする。
たすくさんの、たぶん、本気の上目使い……初めてみた。
安易に発声してしまうのが戸惑われて、小さく頷き、もう一度ポスターを見やった。
さすがに知ってるわよ。
テレビは好きじゃないけれど、総裁選に出馬すると世間で騒がれている人物を知らないほど、情報に疎くはない。
「……どう思う?」
どうって……。質問の意図がよくわからないわ。
こういうのってほんと慣れてないのよ。ここでいう、こういうの、とは、相手の気持ちを考えること。
今まで人の気持ちを考えたことってない。人の気持ちは、「考える」ものじゃなくて「みる」ものだったから。数字として。
だけど、たすくさんの「数字」は見えない。困ったわ。
しょうがない。ここは感じたまま――
「なんとも思わないわ」
たすくさんのもともと大きい目が、犬のようにまんまるくなる。
……穴、開きそうなんですけど。そんなに見つめないでいただきたい。
戸部たすくは、部屋の四方をぐるっと一周するように貼られた「ポスター」を指差した。
『若い力、自国民主党、戸部しずる』
「知ってる?」
不安を全面に押し出した顔で、私の顔色をうかがう。不安というよりは、怯えといった方が近いようなきがする。
たすくさんの、たぶん、本気の上目使い……初めてみた。
安易に発声してしまうのが戸惑われて、小さく頷き、もう一度ポスターを見やった。
さすがに知ってるわよ。
テレビは好きじゃないけれど、総裁選に出馬すると世間で騒がれている人物を知らないほど、情報に疎くはない。
「……どう思う?」
どうって……。質問の意図がよくわからないわ。
こういうのってほんと慣れてないのよ。ここでいう、こういうの、とは、相手の気持ちを考えること。
今まで人の気持ちを考えたことってない。人の気持ちは、「考える」ものじゃなくて「みる」ものだったから。数字として。
だけど、たすくさんの「数字」は見えない。困ったわ。
しょうがない。ここは感じたまま――
「なんとも思わないわ」
たすくさんのもともと大きい目が、犬のようにまんまるくなる。
……穴、開きそうなんですけど。そんなに見つめないでいただきたい。



