彼女を10日でオトします

 しばらく車内で、際限なく伸びてくる手と顔と格闘していると、突然、「あ」と敵が声を上げた。

「運転手サン、その信号の次、左折ね」

 一本道に入っただけで、なにやら凄い世界に迷いこんだみたい。

「そうそう、で、次右折」

 何ここ……立派な構えの家が多すぎない?

「次の十字路、左に曲がったらストップね」

 おそらく、高級住宅街と呼ばれるようなところだと思う。

 そりゃあ、ストップよ。
 だって、曲がった先は、行き止まりだもの。
 行き止まりというか、フロントガラスいっぱいに、ものすごい門なんだもの。

 戸部たすくは、ポケットから裸のお札をとりだして、運転手さんに渡す。

「ああ、いいよ。うるさくしちゃったお詫びに取っといて」

 すごい発言を聞いたような気がする。
 支払いの半分は、『お詫び』?
 タクシーってこういうものなの?

「キョン? 何してるの、早く降りなよ」

「う、うん」

 ねえ、なに?
 この門の向こう側は遊園地なんです、ってオチ?
 逆にそうだとありがたいんだけど……。

 降りた先、目の前にそびえる門。
 それは木製で、深い色合いから年期を感じる。

 中を窺おうにも、門は松のてっぺんがようやく見えるほどの高さで。

 その門の右脇に小さな(といっても一般的なサイズ)扉があって、そこからひょっこりと女の子が出てきた。

 年は、そうね、中学生くらいかしら。
 栗色の髪の毛は肩口でふわふわしていて、それと同じ色の瞳がくりっとしていて。
 なぜか、ジャージ。

「おっそーい」

 腰に手を当てて、頬をぷーっと膨らませて……あれ? デジャヴ? どっかで見たことあるような。

「のどかーーー!」

 声の方向を見るともう誰もいなかった。
 門に視線を移すと、その少女に覆いかぶさる戸部たすくの背中が目にはいった。

 おまわりさーん、そこに痴漢いますけど。