彼女を10日でオトします

 乗用車に乗ったのは、とても久しぶり。
 電車を除けば窓の外を流れる景色は、通学路、バスから見えるものしか知らないに等しい。

 世界は、こんなにも広い。
 しばらく走った窓の外は、もう、知らない世界だった。

 毎日、学校と家の往復。
 買い物は、電車で新宿。新宿の街だって、めったに駅から出ないからほとんど知らない。

 しかし、その生活に不満なんて感じたことは無かったのも確かで。

「ねえ、キョン。
ちょっと、俺とお喋りしない?」

 ほぼ二人っきりの密室で、無言というのもおかしなことのように思える。
 なんだか、戸部たすくの術中にはまっている感は否めないけれど。

「なに?」

 隣に座っているのに、なんだか遠いような気がする。

 ああ、そうか。
 最後にタクシーに乗ったとき、私は、貴兄の膝の上だったんだ。
 その隣におねえちゃんが座って、その向こうは貴兄のおばさん。
 助手席には、おじさんが座ってた。

 あの時は、二人じゃなかった。

「俺ね、キョンに謝らなきゃいけないことが2つあるんだあ」

 何を今更。
 2つどころか、行動全てに謝ってもらいたいものだわ。

「どうぞ」

 シートの上に乗せた戸部たすくの指先に力が入ったように見えた。

「俺って基本的に嘘つきなんだよね」

 ……何のカミングアウトですか。